川﨑真衣子先生|指導者の「想い」をシェアするコラム

根拠と尊厳で、踊る人を守る|川﨑真衣子先生【コラムVol.38】
バレエ安全指導者資格®コラム Vol.38

根拠と尊厳で、
踊る人を守る川﨑 真衣子先生|看護師・バレエ指導者

「これは本当に安全なのだろうか」。現役看護師として人の心身に向き合う川﨑真衣子先生は、バレエの美しさを大切にしながら、その指導に根拠があるかを問い続けています。身体を理解すること。専門家とつながること。そして、生徒の身体と心の境界線を尊重すること。安全を、技術の外側にある配慮ではなく、指導そのものの質として考える先生のまなざしをたどります。

読了目安:約12分執筆:バレエ安全指導者資格®事務局

「生徒のために、もっとできることはないだろうか」。バレエ安全指導者資格®を受講される先生方の振り返りには、いつもそんな想いがあふれています。技術を教えること。上達へ導くこと。そして何より、生徒一人ひとりの心と身体を大切に守ること。

川﨑真衣子先生は、現役の看護師として培った科学的な視点を、バレエの指導へ丁寧に重ねています。感覚だけで押し切らず、なぜその動きが必要なのかを一緒に考える。必要なときには専門家と連携する。そして、生徒の身体に触れるときも、その人の意思を確かめる。そこにあるのは、教える側の正しさより、学ぶ人の理解と尊厳を大切にする姿勢です。

このシリーズでは、バレエ安全指導者資格®を修了された先生方の等身大の言葉とともに、それぞれの先生が大切にしている「バレエへの願い」をお届けしています。今回は、看護師としての専門性を生かし、安全で主体的な学びを支える川﨑真衣子先生をご紹介します。
EVIDENCE BEFORE ASSUMPTION

看護の専門知識に裏打ちされた、根拠のある指導

バレエの動きは、美しく、洗練され、長い歴史の中で磨かれてきました。その一方で、日常生活ではあまり行わない関節の使い方や、身体に大きな負荷がかかる動きも含まれています。美しいから安全とは限らず、伝統的だから誰にでも同じように適しているとも限りません。

川﨑先生の大きな強みは、現役看護師として人の身体と健康に向き合ってきた、科学的で客観的な視点にあります。指導するとき、先生の中にはいつも静かな問いがあります。

「これは本当に安全なのだろうか」
「この伝え方に、根拠はあるだろうか」思い込みを正解にしない、川﨑先生の問い

その問いは、指導をためらうためのものではありません。より適切な方法を見つけるための、前向きで批判的な視点です。昔から続いている方法も、先生自身が受けてきた指導も、いったん立ち止まって見直す。目の前の生徒の年齢、身体の特徴、その日の状態に照らし合わせ、本当に必要なことを選び直していきます。

専門性
現役看護師としての医療・健康の知識
指導の軸
科学的根拠・観察・分かりやすい説明
大切にする環境
心理的安全性と身体の自己決定
目指す文化
専門家が連携する「チーム・バレエ」

指導者がすべてを知っているように振る舞い、生徒がただ従う。そのような一方向の関係ではなく、川﨑先生は、生徒の隣に立って一緒に身体を理解していくコーチであり、エデュケーターであろうとされています。

「先生に言われたから」ではなく、「自分の身体では、こう感じる」「この理由が分かったから、こう動いてみる」。生徒が自分の身体の学び手になれるように支えることが、長く安全に踊るための力になります。

FROM FEELING TO UNDERSTANDING

「気合い」や「感覚」だけに頼らない、やさしい論理

バレエのレッスンでは、「もっと引き上げて」「もっと軽く」「もっと強く」といった感覚的な言葉が多く使われます。経験を積んだ人には伝わる言葉でも、身体感覚がまだ育っていない子どもや、初めてバレエを学ぶ大人にとっては、何をどう変えればよいのか分からないことがあります。

分からないまま頑張ろうとすると、必要のない場所に力が入ります。呼吸を止め、首や肩を固め、関節に負担をかけながら、それでも「もっと」と努力してしまうことがあります。

身体に働く力を、見える言葉へ

川﨑先生は、重力、慣性、重心、支持する場所といった身体に働く力を、視覚的で分かりやすい言葉に置き換えます。

なぜこの姿勢だと安定するのか。どこに体重を乗せると次の動きへ移りやすいのか。いま負担が集中している場所はどこなのか。正解の形だけを示すのではなく、身体の中で起きていることを一緒にほどいていきます。

理解できると、生徒はただ力を入れるのではなく、必要な力と抜いてよい力を選べるようになります。「頑張っているのにできない」という行き止まりから、「ここを変えると動きやすい」という発見へ進むことができます。

論理的に伝えることは、バレエから感性を奪うことではありません。むしろ、身体への不安や無駄な力みが減ることで、音楽や表現へ意識を向けられる余白が生まれます。科学は、美しさを壊すものではなく、美しさを安全に支える土台になるのです。

説明できることは、選べることにつながります。
生徒が理由を理解できれば、違和感を言葉にし、無理な方法を避け、自分の身体に合う動きを探せるようになります。
TEAM BALLET

医療現場の知恵を、バレエへ

医療の現場では、医師、看護師、理学療法士、栄養士、心理職など、異なる専門性を持つ人々が連携しながら、一人の患者さんを支えます。誰か一人がすべてを背負うのではなく、必要な知識と役割を持ち寄り、よりよい支援を考えていきます。

川﨑先生は、看護の現場でその大切さを日々感じてきました。だからこそ、バレエの指導者も、一人ですべての問題を解決しようとしなくてよいと考えています。

指導者が抱え込むのではなく、
専門家とつながりながら、生徒を支える。バレエに根づかせたい「チーム・バレエ」の文化

痛みや怪我が続くときは、医療へつなぐ。食事や体重への不安があるときは、栄養の専門家へ相談する。気持ちの落ち込みや、摂食行動、強い不安が見られるときは、心理や医療の支援を検討する。指導者の役割は、すべてを診断することではなく、変化に気づき、適切な支援への橋渡しをすることです。

それは、指導者の力が足りないということではありません。自分の専門範囲を理解し、必要なときに助けを求められることこそ、生徒を守る専門性の一部です。

成長期の子どもにも、健康維持のためにバレエを続ける大人にも、身体や心の変化を相談できる場所が必要です。川﨑先生の視野の広さは、レッスンの中だけでなく、生徒が生涯にわたって自分の健康を守るための支えにもつながっています。

DIGNITY AND BOUNDARIES

心を守る、心理的安全性とバウンダリー

バレエの指導では、姿勢や身体の方向を伝えるために、教師が生徒の身体へ触れる場面があります。長く当たり前に行われてきたことでも、上達のためなら無条件に触れてよいわけではありません。

川﨑先生は、大人にも子どもにも、身体へ触れる前に本人の了承を得ることを大切にしています。「肩に触れてもいいですか」「骨盤の方向を手で確認してもいいですか」。その一言は、単なる礼儀ではありません。

「自分の身体は、自分のもの」と学ぶ

触れられるかどうかを本人が選べること。嫌なときには断ってよいこと。途中で気持ちが変わってもよいこと。そうした経験は、生徒が自分の身体と気持ちを尊重する力を育てます。

教師との関係に上下があっても、身体の自己決定権まで教師へ渡す必要はありません。技術を学ぶことと、尊厳を守ることは、両立できます。

心理的安全性とは、いつも優しく褒めることだけではありません。分からないと言えること。痛い、怖い、今日は難しいと伝えられること。間違いや失敗によって人格まで否定されないこと。そして、自分の感じ方を大切にしてもらえることです。

川﨑先生は、誰かが疎外感を抱かないような言葉選びや、時代に合ったジェンダーニュートラルな指導にも目を向けています。性別や見た目、身体の特徴を当然の前提にせず、一人ひとりがそのまま学びの場へ参加できる環境を考えています。

安心は、挑戦を弱くするものではありません。
心と身体が守られていると感じられるからこそ、生徒は失敗を恐れすぎず、新しい動きや表現へ踏み出すことができます。
SKILLS FOR BALLET AND LIFE

バレエを通して、「生きる力」を育む

子どもがレッスンに集中できないとき、理由は一つではありません。やる気がないのではなく、疲れているのかもしれない。不安な出来事があったのかもしれない。今は新しい課題を受け止める余裕がないのかもしれません。

川﨑先生は、幼児期から思春期までの心理社会的な発達を学び、表面に見える行動だけで生徒を決めつけないことを大切にしています。できていないことをすぐに叱るのではなく、その子が今どのような状態にいるのかを見ようとします。

中高生の生徒には、自分で目標を立て、実行し、振り返るプロセスも大切にされています。ただ教師から与えられた課題をこなすのではなく、自分はどうなりたいのか、そのために何をするのか、試した結果から何を学んだのかを考える時間です。

教師の答えを覚えるのではなく、
自分で問い、選び、振り返る人へ。バレエの外でも生きる、主体性の学び

そこで育つのは、バレエの技術だけではありません。協調性、適応力、自己理解、問題解決力、助けを求める力、自分の心身を大切にする力。学校、仕事、人間関係など、人生のさまざまな場面へ持ち運べるクロスオーバースキルです。

上達とは、教師の指示へ上手に従えるようになることだけではありません。自分の身体の状態を理解し、必要な練習を選び、無理なときには立ち止まり、また前へ進む方法を考えられること。その力が、長く踊り続ける人を支えます。

BALLET FOR EACH PERSON

一人ひとりが、自分に合ったバレエを見つけるために

「バレエを人生そのものにする必要はない。一人ひとりが、自分の目的に合ったバレエを追求できる環境を」。川﨑先生が大切にするこの言葉には、過去にバレエで悩んだご自身の経験と、医療従事者として多様な人生に向き合ってきたまなざしが込められています。

プロを目指す人。健康のために続けたい人。舞台表現を楽しみたい人。仲間と過ごす時間が好きな人。姿勢や体力を整えたい人。自分に自信を持ちたい人。バレエを学ぶ目的は、一つでなくてよいのです。

一つの価値観だけを正解にすると、そこから外れた生徒は、自分のバレエが足りないもののように感じてしまいます。けれど、目標が違えば、必要な練習も、進む速さも、成功の形も違います。

人生を狭くするバレエではなく、豊かにするバレエへ

バレエを大切にしながら、バレエのために健康や尊厳を犠牲にしない。踊ることを通して、自分の身体を理解し、人と協力し、表現する喜びを知る。

その人の人生の中で、バレエがどのような役割を持つのかを、生徒自身が選んでいけることを川﨑先生は大切にしています。

教師が決めた一つの道へ生徒を当てはめるのではなく、それぞれの目的を聞き、その人に合った学び方を一緒に考える。その姿勢があるからこそ、生徒はバレエに支配されるのではなく、バレエを自分の人生へ生かすことができます。

安全とは、同じ道を歩かせることではなく、自分に合う道を選べるようにすること。
A SAFE PLACE TO BECOME YOURSELF

心身ともに安心できる場所で、自分らしく学ぶ

川﨑先生の指導に流れているのは、「正しく教えたい」という思いだけではありません。生徒が自分の身体を理解し、自分の気持ちを言葉にし、自分に必要なものを選べるようになってほしいという願いです。

看護師としての科学的な視点。身体に働く力を分かりやすく伝える論理。専門家と連携するチーム・バレエの考え方。触れる前に了承を得るバウンダリーへの配慮。そして、発達段階を理解し、主体性を育てるコーチング。

それらは別々の知識ではなく、「目の前の一人を、身体も心も尊厳も含めて大切にする」という一つの姿勢でつながっています。

楽しく、健康に、そして主体的に。
バレエが、その人の人生を豊かにするために。

プロを目指すかどうかにかかわらず、バレエを学ぶ時間は、自分の身体や心との付き合い方を知る時間になります。そこで安心して質問でき、違和感を伝えられ、自分の目標を考えられることは、その後の人生にも残る大切な経験です。

根拠を大切にしながら、数字や理論だけで人を見ない。やさしく寄り添いながら、曖昧な感覚だけで指導しない。その両方を持つ川﨑真衣子先生のクラスは、心身ともに安全な場所で、バレエの本当の素晴らしさに出会いたい人へ、きっとやさしく扉を開いてくれるはずです。

バレエ安全指導者資格®事務局

CERTIFIED TEACHERS MAP

バレエ安全指導者資格® 安全指導者MAP

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執筆:バレエ安全指導者資格®事務局

全国で学び続ける先生方の歩みと、バレエや生徒に向ける真摯な思いをご紹介しています。

NEXT STEP

生徒の未来を守れる先生へ

バレエ安全指導者資格®では、解剖学、栄養学、整形外科学、生体力学、心理、指導法などを多角的に学びます。経験だけに頼らず、目の前の生徒に合った、より安全で、より伝わる指導へ。

バレエ安全指導者資格
運営:Safe Dance Association(セーフダンスアソシエーション)

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