ローザンヌ国際コンクールが教えてくれること ローザンヌ国際バレエコンクール(Prix de Lausanne)が若い才能を守る「ヘルシーポリシー」
日本で「ローザンヌ国際コンクール」「ローザンヌコンクール」とも呼ばれるローザンヌ国際バレエコンクール(Prix de Lausanne/プリ・ド・ローザンヌ)。世界中の若いダンサーが憧れるこのコンクールでは、技術や芸術性だけでなく、公式のHealth Policy(健康方針)によって、身体、心、食習慣、医療連携まで含めた健康とウェルビーイングを守る仕組みが設けられています。
ローザンヌ国際コンクールでは、「健康」も競技を支える重要な条件です
ローザンヌ国際コンクール、正式名称ローザンヌ国際バレエコンクール(Prix de Lausanne)のHealth Policyは、健康を「怪我をしたら対応するもの」ではなく、応募・選考・競技・その後までを支える前提として扱っています。 2027年大会では医師とともに作成する医療フォームが登録プロセスに組み込まれ、公式Health Policyでは身体的健康、メンタルヘルス、食習慣まで含む包括的な評価を掲げています。
健康を確認する
包括的に見る
見直す
支える
世界最高峰の舞台だからこそ、「才能を使い切らせない」
ローザンヌ国際バレエコンクールは、若いダンサーがプロフェッショナルなキャリアへ進むことを支援する国際的なコンクールです。2027年大会は、2008年2月7日から2012年2月6日生まれのダンサーを対象としており、多くの参加者が成長期から青年期にあります。
若い年代で大きなチャンスに挑むからこそ、主催者には「どれだけ踊れるか」だけでなく、その身体と心が競技の負荷に耐えられる状態なのかを見る責任が生まれます。
才能を守ること。
その両方が、若いダンサーを育てる仕事です。
ローザンヌのHealth Policyを、5つのポイントで見る
健康管理を本人の自己責任だけにせず、応募前から競技終了までを制度として支えるところに大きな特徴があります。
医療フォームは、コンクールに出た後ではなく「応募段階」から
健康確認が、正式な登録プロセスの一部になっています。
2027年大会の案内では、ビデオ選考への登録にあたり、医療記録を2026年9月30日までに提出することが求められています。登録フォームを完了すると医療フォームへのリンクが送られ、そのフォームは本人だけで記入するのではなく、医師とともに完成させる必要があります。
まずコンクールへの登録を行う。
主催者指定の医療フォームを医師と確認する。
医療情報を正式な選考プロセスの一部として提出する。
身体だけではなく、心と食習慣まで見る
「踊れる身体」ではなく、「踊り続けられる人」を見る。
Prix de Lausanneの公式Health Policyでは、ビデオ選考前の医療フォームを通じて、各ダンサーの身体的健康、メンタルヘルス、食習慣を包括的に評価するとしています。
才能があっても、「今は出場しない」という判断があり得る
チャンスよりも健康を優先するためには、止める権限も必要です。
2027年版Rules & Regulationsでは、医療評価とビデオ選考の後、候補者の全体的な健康状態や身体状態に懸念がある場合、主催者側がその候補者をコンクールへ参加させるかどうかを判断できると定めています。
さらに、いったん参加可能と判断されたダンサーであっても、ローザンヌ到着後や競技期間中に医療パートナーが懸念を持った場合、コンサルティング医師の診察を受ける必要があります。本人の許可があれば保護者や教師も診察に参加し、その相談をもとに競技を続けられるかが判断されます。
「ここまで準備したのだから、少しくらい無理をしても出たい」
その気持ちは自然です。だからこそ、本人の意志や根性だけに最終判断を委ねず、医学的な視点と組織の判断を入れることに意味があります。
「頑張らせる力」だけでなく、
「必要なときに止める力」があります。
医師だけではない。「360度」でダンサーを支える
怪我への対応だけでなく、複数の専門性を一つの支援体制にする。
Prix de Lausanneは、2024年末からSwiss Medical Networkの一員であるMotionLabと連携しています。公式Health Policyでは、MotionLabの360度のアプローチとして、医師、理学療法士、栄養士、心理職、足の専門家、運動生理の専門家、フィジカルトレーナーなどが一つのチームとして紹介されています。
さらに公式Health Policyでは、競技期間中に医療専門家チームを配置し、専門家によるワークショップを行うことも掲げています。問題が起きた後だけでなく、準備・教育・早期対応までを含めた支援です。
「ここまで来たのだから踊る」という圧力から、若いダンサーを守る
大きなチャンスほど、途中で止まることが難しくなります。
大きなコンクールに挑戦するまでには、何年もの練習、教師の指導、家族のサポート、渡航費や参加費、そして本人の強い思いがあります。
だからこそ、痛みや体調不良があっても「せっかくここまで来たのだから」「このチャンスは二度とないかもしれない」と考え、無理を続けやすくなります。
「頑張れるか」ではなく、「続けてよい状態か」を判断する
バレエの現場では、努力や忍耐は大切な価値です。しかし、健康上の判断まで「本人が頑張れるかどうか」に任せてしまうと、危険な状態を見逃す可能性があります。
| 場面 | 努力だけで考えると | 安全の視点を加えると |
|---|---|---|
| 痛み | 我慢できるなら踊る | 負荷、症状、機能を見て続行・調整・中止・受診を考える |
| 体型 | 細いほど有利だから減量する | パフォーマンスと身体的・心理的健康を同時に見る |
| 食事 | 自己管理の問題として本人に任せる | 食習慣を健康の一部として捉え、必要なら専門家へつなぐ |
| メンタル | 気持ちを強く持つ | メンタルヘルスもパフォーマンスの土台として扱う |
| 大舞台 | せっかく来たのだから出る | 長期的な健康を守るため、必要なら参加を見直す |
「今、やってよいか」を考える。
それも指導と運営の専門性です。
健康を、ダンサー個人の「自己管理」だけにしない
ローザンヌの仕組みから見えてくるのは、本人・周囲の大人・専門家・組織が役割を分ける考え方です。
本人の声と自己理解
痛み、不安、疲労、食事や体調の変化を伝えられる。自分の身体を知り、無理を隠さなくてよい環境を持つ。
教師・保護者の判断
「頑張りなさい」だけで終わらせず、異変に気づき、負荷を調整し、必要なときに医療や専門家へつなぐ。
組織のルールと専門家
医療フォーム、相談経路、専門家チーム、参加可否の判断など、個人の善意に依存しない仕組みを整える。
ヘルシーポリシーは、「弱く教えること」ではありません
安全を重視することと、高い芸術的・技術的水準を求めることは両立できます。
日本のバレエ教室で、明日から考えられること
すべての教室がローザンヌと同じ医療体制を持つことは現実的ではありません。しかし、その考え方を小さな仕組みに置き換えることはできます。
ローザンヌ国際コンクール(Prix de Lausanne)とHealth Policyについて、よくある質問
ローザンヌ国際コンクールとは何ですか?
「ローザンヌ国際コンクール」は、日本語で「ローザンヌ国際バレエコンクール」とも呼ばれるPrix de Lausanne(プリ・ド・ローザンヌ)を指す表現です。本記事では、検索で使われるこれらの名称を同じコンクールを指す言葉として併記しています。
ローザンヌ国際バレエコンクールのHealth Policyとは何ですか?
若いダンサーの健康とウェルビーイングを重視し、事前の包括的な医療評価、競技期間中の医療専門家チーム、専門家によるワークショップなどを組み込んだ健康方針です。公式サイトでは20年以上にわたって厳格な健康方針を発展させてきたと説明しています。
2027年の応募では医療フォームが必要ですか?
はい。2027年大会の案内では、医療記録を2026年9月30日までに提出し、登録後に送られる医療フォームを医師とともに完成させることが求められています。
健康上の問題があると必ず出場できないのですか?
一律ではありません。2027年版規則では、医療評価とビデオ選考後に健康状態への懸念がある場合、主催者側が参加可否を判断できるとしています。競技期間中に懸念が生じた場合も医師の診察を受け、継続参加が判断されます。
身体だけでなくメンタルヘルスも対象ですか?
はい。公式Health Policyでは、身体的健康だけでなく、メンタルヘルスと食習慣も含めた包括的な医療評価を行うとしています。
ローザンヌではどのような専門家が関わっていますか?
公式Health Policyで紹介されているMotionLabの360度の体制には、医師、理学療法士、栄養士、心理職、足の専門家、運動生理の専門家、フィジカルトレーナーなどが含まれています。
日本のバレエ教室がすぐに取り入れられることは何ですか?
まずは、痛みや体調を伝えられる仕組み、休む判断を不利益にしない文化、教師の専門範囲を超えたときの医療・心理・栄養などへの相談先を整えることから始められます。
安全とは、夢を小さくすることではなく、夢を長く続けられる状態を守ること
ローザンヌ国際コンクール(ローザンヌ国際バレエコンクール/Prix de Lausanne)は、若いダンサーにとって大きなチャンスです。だからこそ、そのチャンスを理由に健康を後回しにしない仕組みが必要になります。
医師と作成する医療フォーム。身体だけでなく心理や食習慣まで含めた評価。競技期間中の医療専門家チーム。そして、必要であれば参加や継続を見直す判断。
そこにあるのは、「健康にも気をつけましょう」という呼びかけではありません。健康を、制度として守るという考え方です。
技術だけでなく、
ダンサーを守る仕組みも世界基準へ。
今日踊れることだけではなく、5年後、10年後にも踊り、学び、自分の人生を選べる状態を残していく。そのために、教師、保護者、専門家、そして組織が何をできるのか。ローザンヌのHealth Policyは、その問いを私たちにも投げかけています。
参考にした公式情報
- Prix de Lausanne — Health Policy
- Prix de Lausanne — Practical Information 2027
- Prix de Lausanne — Official Medical Partner of the Prix de Lausanne
「頑張らせる力」と同じくらい、「守る判断」を学ぶ
怪我、体型、栄養、心理、成長期。生徒のために何かしたいと思ったとき、教師一人の経験だけでは判断に迷う場面があります。身体・医学・心理・栄養などを横断し、安全な指導のための判断力を学ぶ教師教育があります。
