歩いてきた道のすべてが、
誰かの「始めたい」を支えていく浜 俊江先生|健康バレエtutu主宰
学校教育、マウンテンバイク競技、25シーズンにわたるスキー指導、そして32歳から始めたバレエ。浜俊江先生は、一見異なる経験を一つずつ結びながら、年齢や経験にかかわらず、安心して身体を動かせる場所を長野県の諏訪エリアで育てています。
浜先生の歩みをたどっていると、「バレエを始めるのに遅すぎる年齢はない」という言葉が、きれいな理想ではなく、ご自身の経験から生まれた実感なのだと分かります。
幼い頃からバレエ一筋で歩んできたのではなく、競技スポーツに打ち込み、学校や雪山で多くの人に身体の動かし方を伝え、ご自身も大人になってから一人の学習者としてバレエと出会う。そのすべてが今、「健康バレエtutu」という、40代から80代までの方々が笑顔で集う場所につながっています。
私たち事務局も、資格コースで浜先生とご一緒する中で、知識を得ること以上に大切なものを何度も教えていただきました。それは、目の前の人が何を不安に思い、どんな小さな願いを抱いているのかを想像し、その人の歩幅に合わせて学びを届けることです。
身体を動かすことと、人に伝えることを重ねてきた歩み
浜先生は長野市に生まれ、幼い頃からバレーボールやスキーなど、さまざまな運動に親しんでこられました。小学校、中学校・高等学校の保健体育、幼稚園の教員免許を持ち、小中学校の教員として約5年間勤務された経験があります。
その後、本格的に取り組まれたのがマウンテンバイクのダウンヒル競技でした。学校教員として働いていた20代に競技を始め、やがて教員を離れて競技生活へ。公式プロフィールでは、ワールドカップへの参戦、日本代表としての世界選手権出場、1997年アジア選手権ダウンヒル女子の部2位という歩みが紹介されています。
速度、斜面、刻々と変わる路面状況の中で、瞬時に重心を調整し、自分の身体と環境を読み取る。華やかな成績の裏側には、怪我や思うようにいかない時期もありました。だからこそ、浜先生にとって身体は、ただ鍛えて思いどおりに動かす対象ではなく、状態を感じ取り、守りながら長く付き合っていく存在なのだと思います。
- 活動拠点
- 長野県・諏訪エリア(茅野市、岡谷市、オンライン)
- 主宰
- 健康バレエtutu
- バレエ開始
- 32歳
- 健康バレエ開始
- 2018年
- 主な指導経験
- 学校教育、スキー指導25シーズン、障害のある方への運動指導
- 主な学び
- バレエ安全指導者資格®、大人バレエ、姿勢・体軸・身体の安全
冬にはスキーインストラクターとして、子どもから大人まで、年齢や運動経験の異なる方を長年指導してこられました。ご本人の発信では、これまで指導した方は延べ約1万人。雪面や斜度、恐怖心まで一人ひとり異なる環境で、「同じ言葉を全員に伝えればよいわけではない」ということを、浜先生は現場で何度も確かめてこられたのではないでしょうか。
バレエの指導歴だけを切り取るのではなく、教育、競技、怪我、スキー指導、福祉の現場など、それまでの人生で培ったものすべてが、今の指導を支える専門性になっています。
32歳から始まった、一人の大人としてのバレエ
マウンテンバイク競技を引退し、結婚を機に生活が変わった頃、浜先生は偶然目にしたバレエスタジオの看板をきっかけに、32歳でバレエを始められました。
子どもの頃から身体に動きが染み込んでいたわけではありません。手と足を同時に動かす難しさ、名前を聞いてもすぐには動きが出てこない戸惑い、鏡に映る自分への照れ、周囲についていけない焦り。大人からバレエを始めた方が抱きやすい感覚を、浜先生自身も一つずつ経験してこられました。
競技スポーツでは、結果を出すことや上達することを目標に努力してきた浜先生。一方、バレエでは、すぐにできるようになることだけを求めず、分からなさや不器用さも含めて、少しずつ続ける時間を楽しまれたそうです。
続けているうちに、昨日とは違う自分に出会える。
約1年が過ぎた頃、ご自身が少しずつ変わっていることに気づき、「継続は力なり」という言葉を実感されたと振り返っています。だから浜先生は、生徒さんに早すぎる結果を求めません。できなかった動きができることだけでなく、教室へ足を運べたこと、音楽に合わせて身体を動かせたこと、今日も笑って帰れたことを、同じように大切にされています。
舞台の中で見つけた、踊ることのさまざまな形
浜先生は、大人から始めた後も学びを続け、発表会だけでなくオーディションを経てバレエ団公演にも出演されました。『ドン・キホーテ』『眠れる森の美女』『ジゼル』などで、街の人々、乳母、貴族、村人といった役を経験されています。
また、ガマーシュ、カラボス、継母、クララの父、ネズミの王様など、物語を支えるキャラクター役にも取り組んでこられました。高い技術を見せることだけではなく、その人物として舞台に生き、作品の空気をつくることにも、バレエの喜びがある。その経験は、生徒さん一人ひとりの楽しみ方を認める視点にもつながっています。
「あなたに教えてほしい」から始まった健康バレエtutu
健康バレエの始まりは2018年。浜先生が養護学校の放課後学童で指導員として働いていた頃、定年を迎える同僚の方から、「浜ちゃんにバレエを教えてほしい」と声をかけられたことがきっかけでした。
浜先生は最初、「大人から始めた自分が、人にバレエを教えることはできない」と断られたそうです。バレエを教えるなら、幼少期から専門的に学び、豊富な舞台経験を持つ人でなければならない。そのように考える気持ちは、決して不自然なことではありません。
けれど、その方が求めていたのは、難しい技術や権威ではなく、浜先生の教え方そのものでした。話をよく聞き、分からない人を置いていかず、その日の身体に合わせて伝えてくれること。「浜先生だから教わりたい」という願いでした。
完璧に踊れる先生ではなく、
安心して一緒に動ける浜先生でした。
公民館のじゅうたん敷きの部屋を借り、棚をバーの代わりにして始まった小さな集まり。その時間が、今の健康バレエtutuへと育っていきました。
私たち事務局は、この始まりに、指導者の大切な原点があるように感じています。誰かに知識を与える前に、その人が「この先生とならやってみたい」と思える関係があること。資格や経歴が不要という意味ではなく、学びや専門性が、目の前の人との信頼の中で初めて生きるのだということです。
「できない側」の気持ちを、置き去りにしない
浜先生の指導の大きな特徴は、ご自身が大人からバレエを始めた学習者であり続けていることです。
指導者にとって当たり前になった動きも、初めての人には何をどう動かせばよいのか分からない。専門用語が理解できても、身体では再現できない。見本を見せられるほど、「自分には無理」と感じてしまうこともあります。
浜先生は、できない理由を努力不足や年齢のせいだけにしません。言葉を変え、動きを小さく分け、何を感じればよいのかを一緒に探します。学校教育、スキー、障害のある方への指導、そしてご自身のバレエ経験が重なり、相手の立場から説明を組み立てる姿勢につながっています。
- 専門用語だけに頼らず、生活の中の感覚に置き換えて伝える
- 手本と同じ形にする前に、身体のどこが動いているかを確かめる
- 年齢や経験を理由に、本人の「やってみたい」を先回りして否定しない
- 無理をさせないことと、可能性を狭めないことの両方を大切にする
- 笑いながら失敗できる空気をつくり、継続のハードルを下げる
夢を守る「踊らないトウシューズクラス」
「一度でいいから、トウシューズを履いてみたい」。大人からバレエを始めた方の中には、そんな願いを心に持っている方もいます。
その願いを笑わず、同時に危険な立ち方を急がせない。まずはトウシューズを知り、足を守り、正しく立つことから始める。「踊らないトウシューズクラス」は、夢を叶えることと身体を守ることを対立させない、浜先生らしい取り組みです。
「安全だから、何もさせない」のでも、「夢のためだから、無理をさせる」のでもない。その間で、一人ひとりに合う方法を探し続ける。私たちが資格で大切にしている安全指導を、浜先生はご自身の言葉と実践で、あたたかく形にしてくださっています。
良い姿勢、強い足腰、しなやかな体幹を暮らしの中へ
健康バレエtutuが掲げる大切な柱は、「良い姿勢」「強い足腰」「しなやかな体幹」です。
目指すのは、舞台上で完成された形だけではありません。立ち上がる、歩く、階段を上る、転ばないように身体を支える。日々の暮らしを自分の足で続けていくために、バレエの姿勢や重心移動、足裏の感覚、音楽に合わせる楽しさを役立てていきます。
レッスンでは、足首や足指を動かし、身体を整える準備から始めます。バーでは比較的シンプルな動きを丁寧に繰り返し、手と足を別々に動かす課題なども取り入れます。身体だけでなく、注意を向ける力や協調性を刺激する時間でもあります。
音楽とバレエがあるから、また身体を動かしたくなる。
参加されているのは、主に40代から80代の方々です。運動が得意な方ばかりではありません。「若い人に交じるのは気が引ける」「身体が硬い」「覚えることに自信がない」と感じていた方も、少人数の中で、少しずつ自分の身体と仲良くなっていきます。
浜先生が生徒さんたちを親しみを込めて「オバリーナ」と呼ぶことがあります。その言葉には、年齢を隠したり若さを競ったりするのではなく、年齢を重ねた今の自分で堂々とバレエを楽しもう、という明るい肯定が込められています。
姿勢や筋力だけでなく、趣味、生きがい、仲間、舞台への憧れ、外へ出るきっかけ、そして「まだ新しいことを始められる」という自分への信頼です。
身体づくりを入口に、バレエの文化へつないでいく
浜先生の活動は、健康のための運動だけで終わりません。青空の下で身体を動かす「青空バレエ」、仲間と舞台を観る鑑賞会やツアー、バレエ作品や歴史を伝える発信、海外バレエ団で活動するダンサーを招いた大人向けワークショップなどへ広がっています。
健康をきっかけにバレエへ出会った方が、音楽を知り、物語を知り、舞台を観て、プロのダンサーと同じ空間で学ぶ。バレエを「自分とは遠い世界」と感じていた方が、少しずつその文化の内側へ招かれていきます。
そこには、バレエを薄めて体操にするのではなく、難しさや敷居を調整しながら、バレエの魅力そのものを手渡したいという思いがあります。
舞台を支えるキャラクターとして
浜先生はご自身の舞台経験を生かし、作品の中で母親、乳母、貴族、村人、悪役などを演じる「キャラクターダンサー・立ち役」として、舞台づくりを支える活動にも取り組んでいます。
主役だけで舞台は成り立ちません。物語の背景を生きる人々がいるからこそ、作品の世界が立ち上がります。目立つ場所だけでなく、自分にできる役割を見つけ、その場全体を支える姿勢は、教室づくりにも通じています。
浜先生の活動を見ていると、バレエは「習うもの」であると同時に、人と出会い、土地とつながり、人生を楽しむための文化なのだと改めて気づかされます。
学びを自分の中だけに置かず、生徒さんへ届けていく
浜先生は健康バレエを始めた後、「自分が習ってきたバレエをそのまま伝えるだけでは、中高年の身体に十分寄り添えない」と感じ、身体の仕組みや安全な指導について学びを重ねてこられました。
バレエ安全指導者資格®のベーシックコース、プロフェッショナルコースを修了し、認定講師としても活動されています。さらに、大人バレエ認定専門講師、バレエ姿勢ベーシックインストラクター、体軸セラピスト養成コースなど、現在の生徒さんに必要な学びを選び続けています。
浜先生が届けてくださった感想の中に、学んだことには「すぐにレッスンへ生かせるもの」「十分に咀嚼してから伝えるもの」「長い時間をかけて熟成させるもの」がある、という趣旨の言葉がありました。
目の前の人が受け取れる形にして渡していく。
新しく知った専門用語を並べることや、学んだ理論を一度に教え込むことが目的ではありません。生徒さんの表情や身体の反応を見ながら、必要な分だけ、分かる言葉に翻訳して届ける。そして実践の中でもう一度考え、指導を育てていく。
私たち事務局にとっても、浜先生の姿勢は大切な学びです。資格は、修了証を受け取ったところで完成するものではありません。学びが地域や教室へ持ち帰られ、目の前の一人の身体と心を守る形になって、初めて意味を持ちます。浜先生は、その循環を日々の活動の中でつくってくださっています。
浜先生が感じ取ってくださった、資格コースの「その先」
コースを修了された際、浜先生は、とても印象に残る言葉を届けてくださいました。
「バレエを通して世界を平和にすること」なのかもしれない。浜俊江先生
「うまく言葉にできないけれど、皆さんも最後まで受講すると分かるかもしれません」。その言葉をいただいたとき、私たち事務局は、資格の中でお伝えしたかったことを、浜先生ご自身の感性で受け取ってくださったことが、とてもありがたく感じられました。
私たちが目指しているのは、壮大な理想を掲げることだけではありません。レッスンの中で誰かを比べないこと。痛みを我慢させないこと。年齢や経験を理由に夢を笑わないこと。分からない人を置いていかないこと。困ったときに相談できる関係をつくること。
そうした一つひとつの選択によって、身体を傷つける力や、心を小さくする言葉を減らしていくことです。浜先生はその意味を、知識としてではなく、ご自身が歩いてきた人生と重ねながら感じ取ってくださいました。
浜先生へ——学びをご一緒してくださったことへの感謝を込めて
浜先生、資格での学びを、ご自身の中だけにとどめず、健康バレエtutuに通う皆さまへ、分かりやすく、やさしく届け続けてくださりありがとうございます。
教育、競技、スキー、福祉の現場、大人になってからのバレエ。浜先生が歩いてこられた道は、どれか一つだけでは今の活動につながらなかったのだと思います。成功した経験だけでなく、できなかったこと、迷ったこと、怪我をしたこと、教えることにためらったことまでが、今、誰かの不安を理解する力になっています。
浜先生の活動から私たちが感じるのは、指導者の価値は、華やかな経歴や難しい技術だけで決まるものではないということです。目の前の人が何を願っているのかを聞き、その人に届く言葉を探し、安心して続けられる環境をつくる。その積み重ねもまた、確かな専門性です。
その言葉のまわりには、健康になれることだけでは言い尽くせない、浜先生のバレエへの愛情が広がっています。音楽に合わせて身体を動かす喜び。昨日より少しできた喜び。仲間と笑う喜び。舞台を観て心が動く喜び。いくつになっても、新しい自分に出会える喜び。
これからも長野の地で、そしてオンラインを通して、浜先生らしいあたたかなバレエの時間が、多くの方の毎日へ届いていくことを、事務局一同、心より応援しています。
バレエ安全指導者資格®事務局
バレエ安全指導者資格® 安全指導者MAP
各コースを修了された先生がいらっしゃる全国のスタジオを、お教室選びの参考にご覧いただけます。
目の前の生徒に、より深く寄り添える指導へ
バレエ安全指導者資格®では、解剖学、整形外科学、生体力学、栄養学、心理学、指導法、バレエ史などを学びます。知識を増やすことだけでなく、それぞれの先生が歩んできた経験と結び、目の前の生徒へ届く形に育てていくことを大切にしています。
