牛尾美菜子先生|指導者の「想い」をシェアするコラム

バレエが、人生を豊かにしてくれる|牛尾美菜子先生
TEACHER STORY / 修了生紹介

バレエが、人生を豊かにしてくれる 牛尾 美菜子先生|福岡/むすびの森バレエスタジオ

上手になることだけが、バレエの価値ではない。音楽に触れ、身体を動かし、舞台に立ち、 地域の人とつながり、いつか離れてもまた帰ってこられる。バレエが、その人の人生を少し豊かにしてくれること。 福岡市西区で子どもたちを指導する牛尾美菜子先生のお話からは、そんな教室の姿が見えてきます。

むすびの森バレエスタジオ 福岡県福岡市 バレエ安全指導者資格®ベーシック講座 修了

田んぼが広がり、外に出れば虫を捕まえられるような自然の中。ご実家の神社にある多目的ホールの一隅で、 牛尾先生は「むすびの森バレエスタジオ」のレッスンを行っています。 地域の老人ホームなどでバレエを披露する機会があり、夏にはそうめん流しやスイカ割り、冬にはクリスマスパーティーを楽しむこともあるといいます。 そこにあるのは、バレエだけで完結しない、地域と暮らしにつながった時間です。

このシリーズでは、バレエ安全指導者資格®︎で学ばれた先生方に、これまでの歩み、指導で大切にしていること、 学び直した理由、これからの教室について伺います。今回は、むすびの森バレエスタジオの牛尾美菜子先生をご紹介します。
01 / PLACE

神社の多目的ホールの一隅にあるバレエ教室

牛尾先生のご実家は、人と人との「ご縁」を大切にする神社です。その多目的ホールの一隅を使い、 妹さんと一緒に「むすびの森バレエスタジオ」で指導をしています。教室の名前にも、さまざまな人との縁を結ぶ場所でありたいという思いが込められています。 周囲には田園風景が広がり、ちょうちょが飛び、子どもたちが虫を捕まえられるようなのどかな環境です。

教室の活動も、レッスンだけには収まりません。地域の老人ホームなどのイベントでバレエを披露する機会があり、 夏にはそうめん流しやスイカ割り、冬にはクリスマスパーティーをみんなで楽しむこともあります。 バレエを習いに来た子どもたちが、踊ること以外の思い出も一緒に持ち帰っていく。 そんな時間が、自然に教室の文化になっています。

バレエの時間が、その子の人生の中でどんな時間になるのか。 牛尾先生のお話から見えてくる、むすびの森バレエスタジオの風景

技術を高めることはもちろん大切です。ただ、子どもの頃にバレエと出会った記憶には、 音楽、衣裳、先生や友達との会話、舞台の緊張、地域の人に見てもらった経験までが一緒に残ります。 むすびの森バレエスタジオには、そうした「豊かな体験としてのバレエ」があります。

02 / BEGINNING

「踊ることが好き」から始まったバレエ

牛尾先生がバレエを始めたのは4歳。近くで日本舞踊を習える場所を探していた時にバレエ教室を見つけ、 見学したことがきっかけでした。そこでバレエを好きになり、音楽に合わせて身体を大きく動かし、踊りながら表現することを楽しむようになっていきました。

子どもの頃の自分を振り返ると、「踊ることは好きだったけれど、集中力がある生徒ではなかった」と話します。 バーレッスンよりも踊ることが好きで、今になって「もっと質問して、コツコツ学んでおけばよかった」と感じることもあるそうです。

やがて「もっと上手になりたい」という気持ちが強くなり、小学校高学年から中学生になる頃に教室を移りました。 最初の教室が嫌だったわけではありません。好きな先生や仲間がいる場所を離れることには迷いもありました。 それでも、自分の中に生まれた次の目標に向かって環境を変えた経験は、後に生徒の進路や選択を考える際の視点にもつながっています。

お名前
牛尾 美菜子 先生
所属
むすびの森バレエスタジオ
バレエ歴
4歳よりバレエを始める
学歴
2002年 Glendale Community College 卒業
指導歴
2006年より福岡でバレエ指導
地域指導
2014年より地元の子どもたちを指導
現在
2021年より、むすびの森バレエスタジオにて指導
修了講座
バレエ安全指導者資格®ベーシック講座

2002年には米国カリフォルニア州のGlendale Community Collegeを卒業。 在学中にはバレエやダンスなどのパフォーマンスにも参加しました。 帰国後、2006年より福岡でバレエ講師として指導を始め、2014年からは地元の子どもたちの指導に携わっています。

03 / TEACHERS

二人の先生から受け取ったもの——「楽しい」と「基礎」の両方

最初に習った先生について、牛尾先生は「バレエを好きになるきっかけをつくってもらった先生」と振り返ります。 リズムから動きをつくったり、創作を踊ったり。厳しさから入るのではなく、音楽と身体を使う楽しさをたくさん経験させてもらいました。

その後に移った教室では、コンクールに挑戦する生徒も多く、より基礎を意識する環境に入りました。 「基礎ができていない」と指摘された経験もあった一方で、努力した時にはしっかり認めてもらったことが記憶に残っているといいます。 また、技術だけでなく「普段からおしゃれをしなさい」と言われたことも印象的だったそうです。

さらに、作品を踊る際には、形をなぞるだけではなく、役やマイム、上半身のラインまで含めて表現することを教わりました。 先生自身が見せるシルフィードや白鳥の姿が、本当にその存在に見える。 言葉だけでは説明できない「バレエらしさ」を、目の前の身体から受け取った経験です。

04 / TEACHING

できるようになった瞬間を、自分のことのように喜ぶ

牛尾先生が指導を始めた入口の一つは、帰国後、妊娠中の先生から「バレエのお手伝いをしませんか」と声をかけられたことでした。 その後、姪とその友人に「バレエを教えてほしい」と頼まれ、ご実家の場所を借りて少しずつ教え始めます。 教えるうちに「もっとしっかり教えたい」という気持ちが育っていきました。

小さな子が初めてスキップできた。なかなか伸びなかったつま先が、少しずつ伸ばせるようになった。 自分が伝えたことによって目の前の子どもが変わる瞬間に、「自分のことのように嬉しかった」といいます。

「できるようになった時が、自分のことのように嬉しかった。」 牛尾 美菜子先生

バレエ教師の仕事は、完成した踊りを教えるだけではありません。 まだ身体の使い方も、集中の仕方も、挨拶の仕方も発展途上にある子どもたちと、 小さな変化を積み重ねていく仕事です。 牛尾先生がレッスンで大切にしているのも、その「途中」を諦めずに見続けることです。

05 / BODY & LEARNING

身体で示せないからこそ、学び、言葉にする

一方で、指導者として歩む中には大きな転機もありました。 踊っていた頃に身体を痛め、思うように動けなくなった経験です。 それまでは、自分で動いてみることで「ここはこう使えばいい」と身体で確かめられることがありました。 けれど、自分自身が十分に動けなくなれば、それだけに頼ることはできません。

現在も牛尾先生は、できる範囲で自分の身体を使って見本を示すことを大切にしています。 バレエは、説明だけでは伝わり切らない質感やラインがあるからです。 だからこそ、思うようにお手本を見せてあげられないことには葛藤もあります。

そこで必要になったのが、「自分ができる」こととは別の指導力でした。
身体の仕組みを知ること。怪我について学ぶこと。子どもの状態を観察すること。 そして、自分の感覚をそのまま押しつけるのではなく、生徒に伝わる言葉へ置き換えることです。

本や講義から知識を得ながら、「自分にはできなかったことを、子どもたちにはどう伝えたらいいだろう」と考えるようになりました。 怪我は望んだ経験ではありません。それでも、指導を身体能力だけに頼らず、 学び続けながら組み立て直すきっかけになったことは確かです。

06 / DIFFERENT GOALS

一人ひとり違う「バレエをする理由」に、どう寄り添うか

むすびの森バレエスタジオには、幼児から大人まで、そして3歳くらいの子どもと保護者が一緒に参加する親子クラスまで、さまざまな人が通っています。 週1回通う子、趣味として楽しみたい人、ダンスや新体操を続けながらバレエにも来る子、もっと本格的に頑張りたい子。 バレエとの距離も、目標も、一人ひとり違います。

だからこそ牛尾先生は、「どこまで求めるべきなのか」で悩むことがあります。 もっと基礎を身につけてほしい。でも、その子にはその子が大切にしている別の活動もある。 髪をお団子にすること、レオタードを着ること、レッスンのルールを守ることを、 ただ「バレエだから当たり前」と伝えるだけでよいのか——。

その迷いの根底にあるのは、決まりを守らせたい気持ちというより、 せっかくバレエに来ているのだから、ここでしかできない文化や体験も受け取ってほしいという願いです。 同時に、バレエを選ぶ目的は全員同じでなくていい。 この二つの間で考え続けること自体が、牛尾先生の指導の特徴でもあります。

07 / BASICS

基礎を伝えることを諦めない。それでも、バレエだけに縛らない

牛尾先生自身、子どもの頃に「もっと基礎を学んでおけばよかった」という思いがあります。 だから今、生徒たちには、将来ダンスへ進むとしても、別の道へ進むとしても、 身体を扱うための土台となる基礎はできるだけ身につけてほしいと考えています。

レッスンでは、できなかったことをそのままにせず、何度も声をかけることもあります。 中学生くらいになると、時には反発されることもある。それでも「言わなくなる」ことはしたくない。 その子が今すぐ理解しなくても、いつか残るかもしれないものを、教師として伝え続けたいからです。

一方で、理想の教師像として牛尾先生が挙げたのは、明るく前向きで、 「今日もレッスンに来てよかった。楽しかった。次も頑張ろう」と思ってもらえる先生でした。 基礎を丁寧に伝えることと、レッスンを楽しい時間にすること。 そして、できない時にも傷つける言葉や感情的な伝え方をできるだけ避け、できた時にはきちんと褒めること。 どちらか一方ではなく、その両方をどう成立させるかを考え続けています。

08 / RELEARNING

心理、栄養、怪我への対応まで。もう一度、指導を学び直す

「もっと知りたい」「一度きちんと学び直したい」と思った時、 牛尾先生が感じていたのは、特定の一分野だけではなく「全般的に知らないことが多い」ということでした。

生徒の集中力が続かない時、どんな言葉を使えばよいのか。 モチベーションが下がっている時、どう関わるのか。 幼少期の引き上げ、アン・ドゥオールやルルベ、足首や指先の強化、後ろに反る時の姿勢を、どう伝えれば少しでも良くなるのか。 成長期の子どもの食事や身体について、どのような言葉で伝えるのか。 怪我が起きた時、教師はどこまで対応し、どこから専門家へつなぐべきなのか。

そうして出会ったのが、バレエ安全指導者資格®︎でした。 解剖学や身体の知識だけではなく、心理、栄養、怪我への対応など、 教室で実際に起きる問題を横断して学べることに魅力を感じ、ベーシック講座を受講しました。

09 / CONFIDENCE

資格で得たのは、「この方法でよかった」と確かめられる自信

学んだ後に変わったことを尋ねると、牛尾先生はまず「一番何よりも、自信がついたこと」と答えました。 すべてを新しく変えたわけではありません。 これまで自分がやってきた方法の中にも、「これでよかったんだ」と再確認できたものがありました。

「一番何よりも、自信がついたこと。」 牛尾 美菜子先生|バレエ安全指導者資格®ベーシック講座 修了

その一方で、知らなかった考え方にも出会いました。 心理の講義では、レッスン中に「こうしなさい」「そこは違う」と、いつの間にか自分の意見を強く押しつけたり、感情的になったりしていなかったかを振り返るきっかけになりました。 怪我への対応も、学んだ後に実際の現場で必要になる場面があり、足首を痛めた生徒に対して慌てず初期対応できた経験から、「学んでおいてよかった」と実感したといいます。

学びは、知識を増やすだけではなく、目の前の生徒を見た時の判断の幅を増やします。 「これは自分で見てよいことか」「もっと注意した方がよいか」「誰かに相談した方がよいか」。 その判断を一人で抱え込まないための土台にもなっています。

10 / SHARED EXPERIENCE

先生一人で全部を背負わない。必要な時は、専門家や別の先生につなぐ

牛尾先生には、自分が十分に動けないことで、見本を見せられないもどかしさがあります。 だからこそ最近、外部の先生に来てもらい、子どもたちが目の前で動きを見て学べる機会の価値を改めて感じたそうです。

教師がすべての技術を一人で見せなければならないわけではありません。 必要なら、動ける先生を招く。舞台やワークショップへ一緒に出かける。 生徒と教師が同じものを見て、「あの動き、すごかったね」と共有できれば、 その後のレッスンで目指すものも具体的になります。

自分にできないことがあるからこそ、別の専門家や先生とつながる。 それは弱さを補うというより、子どもたちの学びの入口を増やすことです。 牛尾先生自身も、学びを通して「全部を自分一人で分からなくてもいい。必要なら専門家にアドバイスをもらったり、紹介したりする選択肢がある」と知ったといいます。 教師が抱え込まず、必要な人へつなぐこともまた、安全な指導の一部です。

11 / MESSAGE

ダンスが好きな子にも、バレエをもっと好きになってほしい

牛尾先生は、バレエだけでなくダンスにも触れてきた経験があります。 だから、ダンスを中心に頑張る子の気持ちも分かる。 バレエを唯一の正解にするのではなく、そこで学んだ身体の使い方や音楽性、基礎が、 ほかのダンスにもつながっていけばいいと考えています。

それでも、「バレエももっと好きになってほしい」という思いがあります。 学んだことで、バレエには身体だけではなく、心や健康、文化、人との関わりまで含めて、 人を豊かにする側面がたくさんあると改めて感じたからです。

「また来たい」と思える場所へ

牛尾先生がつくりたいのは、居心地がよく、また頑張れる気持ちを持って帰れる場所です。 バレエを一番にする子もいれば、ほかのダンスや勉強、別の道を選ぶ子もいる。 それでも、ここで音楽を聴き、身体を動かし、人前で踊り、地域の人と出会った経験が、楽しい思い出として少しでも心に残ってほしいと考えています。

「もっと上手になってほしい」という教師としての願いと、 「その子らしい人生を歩んでほしい」という願い。 牛尾先生のお話を聞いていると、その二つは対立するものではないように思えます。

バレエが人生のすべてでなくてもいい。 一度やめる時があっても、またやりたいと思った時には、違う形で学び直したり、再び始めたりすることもできる。 けれど、バレエと出会ったことで、姿勢がよくなったこと、トゥシューズで踊れたこと、舞台に立ったこと——そんな小さな記憶が人生を少し豊かにすることはあります。 むすびの森バレエスタジオは、そんな可能性を地域の中で静かに育てている教室です。

EDITOR’S NOTE

「教える」とは、自分ができることを見せるだけではない

指導者自身が年齢を重ねたり、怪我を経験したりすれば、いつまでも同じように動けるとは限りません。 その時に問われるのは、見本を見せる能力だけではなく、身体を理解し、言葉にし、 生徒を観察し、必要な時には別の専門家へつなぐ力です。

牛尾先生は、思うように身体で示せない葛藤を抱えながらも、 だからこそ学び直し、日々のレッスンに活かそうとしています。 「先生も学び続けている」という姿そのものが、子どもたちにとって大切な学びになるのだと思います。

学び続ける先生がいることが、子どもたちの安心につながる。

バレエ安全指導者資格®︎ 事務局
SAFE DANCE TEACHERS MAP

バレエ安全指導者資格 安全指導者MAP

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執筆:バレエ安全指導者資格®︎事務局

プロフィールとインタビュー内容をもとに、学び続ける先生方の歩みと、それぞれの指導に込められた願いをご紹介しています。

NEXT STEP

「見本を見せる」だけに頼らない、これからのバレエ指導へ

解剖学、整形外科学、栄養、女性の健康、心理、発達、音楽、歴史、指導法。バレエ安全指導者資格®︎では、教師一人の経験や感覚だけに頼らず、生徒の身体・心・生活を横断して考えるための学びを提供しています。

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