篠田沙織先生|指導者の「想い」をシェアするコラム

バレエが人生の一番でなくてもいい|篠田沙織先生
バレエ安全指導者資格®コラム

バレエが人生の一番でなくてもいい篠田 沙織さん|岐阜/バレエ指導者・公認心理師

上達することだけが、バレエの価値ではない。自分の心と身体を観察し、人生の変化に合わせながら、長く自分自身と付き合っていく方法としてのバレエ。篠田沙織先生の言葉と歩みから、その指導哲学をたどります。

読了目安:約10分執筆:バレエ安全指導者資格®事務局

「私の理想とするバレエは、生涯スポーツ、生涯芸術としてのバレエです」。篠田沙織先生とのインタビューやいただいたレポートからは、この考えが何度も、少しずつ違う言葉になって現れます。

身体が硬かった幼少期。怪我。中学生の頃に見つかった脊柱側弯症。プロダンサーを目指すことから、自分の身体をモニタリングするためのバレエへと変わった付き合い方。恩師の急逝をきっかけに始まった指導。妊娠、出産、育児、仕事。そして、公認心理師、学校教育、身体科学、安全指導についての学び。

それらを一本につないでいくと見えてくるのは、単に「安全に配慮する先生」という姿だけではありません。

バレエを通して、自分の心と身体を知り、自分の人生を自分で調整できる人を育てようとする指導者。それが、篠田先生の指導の中心にあるように思います。

このシリーズでは、バレエ安全指導者資格®︎で学ばれた先生方が、何を大切にし、どのように指導を更新しているのかをご紹介しています。今回は、第2期ベーシックコース、第7期プロフェッショナルコースで学ばれた篠田沙織先生。提出レポート、アンケート、インタビュー内容をもとに、心理・身体・教育・社会・文化の視点から、その指導者像を丁寧にたどります。
A TEACHER WHO SEES THE WHOLE PERSON

「バレエを教える人」を越えて、その人自身に気づくことを支える

篠田沙織先生は、岐阜県岐阜市を中心に、NHK文化センター岐阜教室の「こどもバレエ」「ゆったりおとなリーナ」などでクラシックバレエを指導しています。4歳から30歳代まで、初心者・経験者を問わず幅広い世代と向き合っています。

公認心理師、中学校・高等学校教員免許(国語)を持ち、バレエ安全指導者資格認定講師でもあります。しかし、篠田先生を紹介するとき、肩書だけではその本質を十分に表せません。

篠田先生が繰り返し見つめているのは、技術の完成度だけではなく、「その人の今日の心と身体は、どんな状態なのか」ということだからです。

人は毎日同じではありません。学校で何かあった日もあれば、仕事で疲れている日もある。身体が軽い日も、違和感がある日もある。子どもであれば、成長の途中で身体のバランスそのものが変わっていきます。

だから篠田先生は、決められたレッスンを一方的に当てはめるのではなく、生徒の表情や目線、姿勢、動き方、会話から情報を受け取り、その日のレッスンをどう構成するかを考えます。

人間は、その日そのときに心情や体調が揺れ動く。
そのことを前提に、生徒さんの状況に合わせた指導をしたい。篠田沙織先生のインタビューより

篠田先生の指導を一言で表すなら、「バレエを教える人」よりも、バレエを使って、その人が自分自身に気づくことを支える人と表現した方が近いのかもしれません。

お名前
篠田 沙織
活動地域
岐阜県岐阜市
指導先
NHK文化センター岐阜教室
クラス
こどもバレエ/ゆったりおとなリーナ
指導対象
4歳〜30歳代/初心者・経験者
ジャンル
クラシックバレエ
資格
公認心理師/中高教員免許(国語)
バレエ安全指導者資格®︎
バレエ安全指導者資格認定講師
THE EXPERIENCE OF NOT BEING ABLE TO

「できなかった側」の経験が、いまの指導力になっている

篠田先生がバレエを始めたのは4歳。見学をして「やってみたい」と自分から言ったことがきっかけでした。

けれど、自身を振り返る言葉は意外なほど率直です。

身体は硬く、不器用で、体育も運動も得意ではなかった。「バレエ向きの身体ではありませんでした」と語られました。

それでもバレエを続けた。むしろ、できないことが多かったからこそ、家でストレッチをし、自主練習をし、どうすればできるのかを考える時間が増えていきました。

「できる人」には見えにくい、できないときの感覚

身体的に恵まれ、説明されなくても感覚的にできてしまう人には、「なぜできないのか」が分かりにくいことがあります。

篠田先生は、思い描いたように身体が動かないこと、努力してもすぐには結果が出ないこと、行き詰まったときのフラストレーションを自分自身が何度も経験してきました。

だから現在、生徒ができないときにも「努力が足りない」と単純には考えません。

身体構造なのか。筋力なのか。動きの理解なのか。言葉の受け取り方なのか。感覚なのか。恐怖なのか。集中できない理由が別のところにあるのか。

一つの原因へ急いで決めつけず、いくつもの可能性から考える。

この姿勢は、公認心理師としての専門性と、「できなかった学習者」としての記憶が重なって生まれた、篠田先生ならではの強みです。

WHEN THE MEANING OF BALLET CHANGES

側弯症が変えた、「プロになるためのバレエ」から「自分を知るためのバレエ」へ

篠田先生のバレエ人生に大きな転換をもたらしたのが、中学生の頃に見つかった脊柱側弯症でした。

手術を必要とする段階に非常に近いと分かったとき、それまで持っていた「ダンサーになりたい」という夢との付き合い方を変えることになります。

しかし、そこでバレエそのものを手放したわけではありません。

プロになるためのバレエから、自分の身体をモニタリングするための、生涯スポーツとしてのバレエへ。

バレエは、自分をはかるバロメーターです。
心の状態も体の状態も、フラットに冷静に向き合える。篠田沙織先生のインタビューより

この転換は、篠田先生の現在の指導哲学を理解する上でとても重要です。

人生のある時点で目標が変わっても、その活動まで失う必要はない。同じバレエでも、人生の状況が変われば意味を変えることができる。

怪我をしたときには、怪我をしている自分に必要なバレエがある。妊娠中には、その身体で向き合うバレエがある。仕事や育児で忙しいときには、限られた時間の中で自分を取り戻すバレエがある。

人生が変わるたびに、バレエとの関係も更新していい。

この考え方は、篠田先生自身が人生を通して実践してきたものです。

INHERITING, NOT COPYING

恩師の急逝から始まった指導者人生。「受け継ぐ」は、同じことを繰り返すことではない

篠田先生がバレエ講師になった直接のきっかけは、恩師の急逝でした。

幼い頃から教わってきた恩師を、篠田先生は「第二の母」だと表現しています。生徒以上に汗をかきながら、厳しく、愛情をもって教えてくれた先生。その突然の死によって、篠田先生は遺志を継ぐために指導の側へ立つことになります。

当初はアシスタントとして、メインの先生の意志や方向性を瞬時に読み取りながら子どもをフォローする難しさを経験しました。

そして、踊ることと教えることの違いにも直面します。

感覚で踊ることと、言葉で教えること

自分が踊るときには、感覚に頼ってできていたこともあります。しかし、人に教えるためには、その感覚を言葉へ変え、目の前の身体を客観的に観察しなければなりません。

ここから篠田先生の「言語化する指導」が始まっていきます。

ただし、篠田先生は恩師から教わった方法をそのまま再現し続けようとはしていません。

「教えてもらってきたことだけでは、身体の構造やバレエにつながるトレーニング方法などの知識がなかった」と振り返り、解剖学、運動学、栄養、心理、女性の健康、発達、音楽、歴史へと学びを広げてきました。

つまり篠田先生にとって「受け継ぐ」とは、恩師のやり方を保存することではありません。

恩師から受け取ったバレエへの愛情や責任を、今の時代の知識によって更新し、次の人へ手渡すこと。

そこに、篠田先生らしい継承の形があります。

BALLET AS SELF-OBSERVATION

バレエは「自分を採点する時間」ではなく、「自分を観察する時間」

篠田先生の言葉を読み続けていると、一つの特徴が繰り返し現れます。

それは、自分の状態を一段離れたところから見ることです。

今日は身体が硬い。呼吸が浅い。右側は動くけれど左側が引っかかる。集中しにくい。思うようにできないとき、自分はどんな考え方をしやすいのか。

心理学では、自分自身の認知や状態を観察する働きを「メタ認知」と表現することがあります。篠田先生のバレエ観には、それと重なる部分があります。

自分の考え方の癖を知ること。
自分の体の癖を知ること。
自分をリセットする場を持つこと。篠田沙織先生の受講レポートより

バレエはある程度同じ基本動作を繰り返すからこそ、「いつもの自分」と比較することができます。

昨日より悪いから失敗、昨日より良いから成功、という採点ではありません。

「今日はこうなんだ」と気づくための基準。

篠田先生がバレエを「相棒」「バロメーター」と呼ぶ理由も、ここにあります。

SMALL STEPS, REAL AGENCY

「できない子」をつくらない。できるまでの途中を細かく見る

篠田先生が大切にしているのは、「できる/できない」で人を分けることではありません。

できないなら、どこで止まっているのかを探す。

一つ前の動きへ戻る。反対方向の動きを試す。身体構造から説明する。矢印を使って力の方向を視覚化する。二人で押し合って感覚をつかむ。幼児には動植物や身近なものにたとえる。

ルルヴェでバランスが取れなかった子に対しても、筋力が弱いから無理と決めつけるのではなく、ポジションを調整する。その結果、初めてバランスが取れたときの笑顔が強く印象に残っていると語られました。

練習したらできるかも。やらないとできない。
結果をすぐに出さず、一つずつ丁寧に取り組む。篠田沙織先生のインタビューより

そして篠田先生が「成長」として見ているのは、完成した瞬間だけではありません。

できなかったときに、どうすればよいか工夫し、試行錯誤しようとする姿。

つまり、教えているのは技術だけではなく、「分からないときに、どう学ぶか」でもあります。

これはバレエの外でも使える力です。

LISTENING BEYOND WORDS

声だけではない。表情、目線、姿勢、指先まで「生徒の声」として見る

「生徒さんの声を聞くこと」。篠田先生が指導で最も大切にしていることの一つです。

ただし、ここでいう「声」は、言葉だけではありません。

表情、目線、姿勢、目の力、手先や指先への力の入り方。篠田先生は、それらもその日の状態を伝える情報として見ています。

子どもはいつも、「今日は学校で嫌なことがあった」「不安で集中できない」「身体が怖い」と言葉にできるわけではありません。大人であっても同じです。

レッスン前の雑談も、指導の一部

篠田先生は、学校や家庭、他の習い事、日常生活について話す時間を大切にしています。

バレエ講師であっても、生徒の生活の大部分はバレエの外にある。そのことを忘れないためです。

ここには、生徒を「バレエを習う身体」としてではなく、生活を持った一人の人間として見る視点があります。

その日のレッスンをどう組み立てるのかは、その人の生活から切り離して決められるものではない。

篠田先生の観察は、技術チェックというより、対話の入り口なのです。

SAFETY WITH BOUNDARIES

心理的安全性は、「叱らないこと」「何でも許すこと」ではない

篠田先生の指導は寛容ですが、放任ではありません。

「対応できる、見守ることができるラインを明示する」「周囲の迷惑になることだけは厳しく制限する」と話されました。

本人の事情や行動の背景はできる限り理解する。しかし、他の生徒の安全や学ぶ権利まで侵害することは認めない。

この境界線は、心理的安全性を考える上でとても重要です。

改善点も伝えます。ただし、人格と結びつけない。

  • 人格を否定しない
  • 「全部ダメ」「絶対できない」といったAll or Nothingの考え方を持ち込まない
  • 断定しすぎない
  • 直す点は具体的に、できるだけ一点へ絞る
  • 改善点だけで終わらず、変化した部分も伝える

やる気が見えず、反抗的に見えていた生徒に対しても、ほんの小さな変化を見つけて声をかけるようにしたところ、自分の意志で身体を動かし、直そうとする変化が見えるようになったと振り返られました。

外から従わせるのではなく、本人の中に「やってみよう」をつくる。

心理的安全性と主体性を、同時に育てようとする指導です。

UNIVERSAL DESIGN IN BALLET EDUCATION

「特別な支援が必要な子」ではなく、全員にオーダーメイドの対応を

教員として学校教育に携わる中で、公認心理師としても学び続けてきた篠田先生。その経験が最も明確に表れている考え方の一つが、ユニバーサルデザイン型の指導です。

篠田先生は、発達特性を持つ子だけに「特別対応」を用意するのではなく、すべての子に、その子に届く方法を探すことを大切にしています。

「特別な支援が必要な子への対応」ではなく、
「全ての子にオーダーメイドの対応」をする。篠田沙織先生の受講レポートより

口頭での注意が入りにくければ、人体模型やモデルとなる生徒の動きを見る。身体感覚がつかみにくければ、押し合うことで力の方向を感じる。幼児なら、カナヘビや植物、食べ物など、イメージできる身近なものへ置き換える。大人なら骨や筋肉のつき方から説明する。

重要なのは、全員に同じ説明をすることを「公平」と考えていないことです。

その人に伝わる方法を探すことが、公平である。

そのためには、教師の側に多くの引き出しが必要です。篠田先生が身体、心理、発達、音楽、歴史まで学び続ける理由も、この考え方につながっています。

A THIRD PLACE

学校でも家庭でも職場でもない。「少し自分に戻れる場所」をつくる

篠田先生は、バレエ講師としての自分が、生徒にとって「第3の居場所」のような存在になれたらと考えています。

学校でもない。家庭でもない。大人であれば職場でもない。

そこで担っている役割から一度離れ、音楽を聴き、自分の呼吸や脚、背中へ注意を戻す。

レッスン開始時にはいろいろな感情を抱えていても、一汗かいて、問題から少し距離を取り、冷静になって帰路についてほしい。

「治す場所」ではなく、日常を切り替える場所

篠田先生が目指しているのは、バレエ教室を心理療法の場にすることではありません。

むしろ、日常生活の中で自分の心身へ注意を戻し、少し余白をつくるための場所。自分の変化を話しやすい大人がいる場所です。

大人クラスである程度同じアンシェヌマンを繰り返すのも、そのためです。

「今日はどこまで動けるか」「前回と何が違うか」を感じる。

子どもにとっても、上達を急かされる場所ではなく、安全に身体を動かし、音楽の中で夢中になれる時間を守る。

バレエ教室が人生の中心になるのではなく、人生の途中で、自分に戻ることのできる場所になることを目指しています。

FROM LOOKING TO FEELING

「どう見えるか」より「どう感じているか」。見られる身体から、感じる身体へ

バレエは鏡を使い、美しいラインを追求する芸術です。そのため、どうしても「外からどう見えるか」という視点が強くなります。

脚がどこまで上がるか。身体が細いか。ポジションが美しいか。周囲からどう評価されるか。

篠田先生は、その視点を否定しているわけではありません。しかし、それだけにならないようにしたいと考えています。

どう見えるかよりも、どう感じているかを大切にしてほしい。篠田沙織先生のインタビューより

特に若い世代には、見た目だけではなく、身体の内側で何が起きているか、変化には時間がかかることを伝えています。

マッサージやセルフケアの方法を伝えることにも、「あなたの身体は大切だ。ケアすべき対象だ」と感じてほしいという願いがあります。

痛みについても同じです。

以前は柔軟性の低い生徒に「少しくらい痛くないと身体は柔らかくならない」と伝えたことがあった。しかし安全について学ぶ中で、身体が伸びる感覚と、単なる痛みを区別できるようにする必要があると考え、ストレッチそのものを見直しました。

「痛みに耐えられる身体」をつくるのではなく、小さな違和感に気づける身体感覚を育てる。

これも、篠田先生の考える安全教育です。

BALLET WITHIN A LIFE

バレエが人生の一番でなくてもいい

篠田先生の言葉の中で、特に印象に残るものがあります。

私は自分の経験から、
バレエが1番ではない子に寄り添える。篠田沙織先生の受講レポートより

勉強がある。仕事がある。他の習い事がある。家族がいる。妊娠、出産、育児、病気がある。人生には、バレエ以外の大切なものがいくつもあります。

篠田先生は、それらを「バレエの邪魔をするもの」とは捉えません。

むしろ、それが人の人生だという前提に立っています。

だから、「上達したいなら何よりバレエを優先しなさい」ではなく、「今のあなたの生活の中で、どんなバレエなら続けられるだろう」と考える。

怪我をした時。病気になった時。妊娠した時。育児の合間にようやく自分の身体と向き合う時間が取れた時。

その時々で必要な強度も、頻度も、レッスンの意味も違います。

バレエを続けるために人生を削るのではなく、人生の変化に合わせてバレエとの距離を変えていい。

これが、篠田先生のいう「生涯スポーツ・生涯芸術としてのバレエ」です。

DIFFERENT DESTINATIONS

全員を同じゴールへ連れていかない。「その人のどこへ」を考える

篠田先生が指導者として印象に残った問いの一つに、「誰に」「何を」だけではなく、「どこへ」があります。

同じクラスにいる生徒でも、バレエに求めているものは違います。

身体を思い切り動かしたい人。上手に踊って人に見てもらいたい子。学校や家庭とは違う人間関係の中で過ごしたい子。プロを目指す人。ストレスを解消したい人。自分の身体の調子を確かめたい人。

だから、教師が考える一つの理想像へ全員を近づけるのではなく、それぞれの目的に合わせて「どこへ」を考え続ける必要がある。

コンクールも「全員が通る道」ではない

篠田先生はバレエコンクールを否定していません。プロダンサーとして「大海へ出るための足がかり」と位置づけています。

一方で、自分自身はコンクールに出たいと思ったことがなく、多くの生徒にとっても必ずしも必要な道ではないと考えています。

競争を悪とするのではなく、その人の目的に必要な競争なのかを考える。

順位や体型、役の奪い合いを日常の指導の中心に置かないのも、この考え方からです。

主役だけでは舞台は成立しない。さまざまな役があるから一つの舞台になる。

バレエを通して学ぶ社会の見方まで、篠田先生の指導には含まれています。

VALUE BEYOND IMMEDIATE RESULTS

「すぐ結果が出るもの」だけが価値ではない。バレエから時間の感覚を取り戻す

インタビューの中で、篠田先生は、社会のニュースの中で強い危機感を覚えたものとして、文系学問への予算削減を挙げられていました。

一見するとバレエ指導とは別の話に見えます。しかし、篠田先生にとってはつながっています。

芸術も文化も学問も、一朝一夕には成り立ちません。すぐに数字として成果が現れるものでもありません。

一方、現代社会では、短期間で結果が出ること、目に見える成果、商業的な価値、効率のよさが強く求められます。

篠田先生は、そこに芸術教育が失ってはいけないものを感じています。

何かを変えるには、時間がかかる。
諦めずに地道に取り組むことで得られるものがある。

今日できなかったことが、明日できるとは限らない。何か月もかけて、少しずつ身体の使い方が変わることもあります。

その過程で、自分が焦ったときにどう考えるのか、できないときにどう立て直すのか、休むべきときにどう休むのかを学ぶ。

篠田先生は、学校教育では十分に扱われにくい「休み方」や「自分をフラットな状態へ戻す方法」も、バレエを通して伝えられると考えています。

それは、効率とは違う時間軸を、人の人生へ取り戻す教育でもあります。

SCIENCE AND ART BELONG TOGETHER

身体を守ることと、芸術を深く味わうことを分けない

篠田先生のレポートには、解剖学、栄養、婦人科、発達と並んで、バレエ史や音楽への強い好奇心が現れます。

ディアギレフ、バレエ・リュス、バレエ・スエドワ、ピカソと舞台芸術。宮廷舞踊と政治。衣裳や舞台美術まで含めた大胆な実験。国や時代によって異なる身体観や作品解釈。

篠田先生は、バレエが決して一枚岩ではなく、長い歴史の中で変化し続けてきたことに惹かれています。

「拍を取る」ことから、作品をどう表現するかへ

音楽に合わせて動くためだけに拍を数えるのではなく、どこにアクセントを置くか、どのように呼吸するかで、優美さや役柄の印象まで変わる。

幼児クラスでも手拍子を使いながら、音楽を身体で感じる経験を大切にしたいと考えています。

安全を重視すると、バレエが「健康体操」へ変わってしまうのではないか、と感じる人もいるかもしれません。

しかし篠田先生の考え方は逆です。

身体を知ること。呼吸を知ること。音楽を知ること。歴史を知ること。

それらすべてが、バレエという芸術をより深く味わうためにつながっている。

生涯スポーツとして入口を広げながら、生涯芸術として奥行きも失わない。この二つを同時に目指しています。

A PROFESSIONAL WHO KEEPS REVISING

学ぶほど「自分はまだ分からない」と気づく。その不安を、学び続ける力に変える

篠田先生は、指導を始めた頃の大きな不安として、「自分の知っていることだけで適切な指導ができているのか」を挙げています。

そして、その不安は今も完全にはなくなっていないと話されました。

しかし、その不安は篠田先生を止めるものではなく、学び続ける理由になっています。

バレエ安全指導者資格®︎の講義でも、感想だけを書いて終わることはほとんどありません。

ストレッチを組み直す。アンシェヌマンのスピードを見直す。ターンアウトや引き上げの説明を考え直す。応急時に必要となる備えを確認する。成長期の生徒へ栄養や月経をどう伝えるか考える。足部やジャンプの負荷を見直す。

知識を、必ず「では自分のレッスンをどう変えるか」へつなげています。

「知識が増えた=何でも判断できる」ではありません。
身体を学ぶほど、個人差や専門家へつなぐ必要性、教師だけでは判断できない領域が見えてきます。篠田先生が「自分の目にまだ自信がない」と率直に問い続ける姿勢は、身体を扱う専門職としての慎重さでもあります。

バレエ安全指導者資格®︎で学んだことで、生徒を見る視点がまったく別のものへ変わったわけではない、と篠田先生は書いています。

むしろ、それまで一人で考えていた方向性が大きくずれていなかったと確認できたことが心強かった。

つまり、学びによって新しい人格へ変わったのではありません。

すでに持っていた人間観や教育観へ、医学・身体科学・心理・栄養・文化の輪郭が与えられていった。

「肚におとして、噛み砕いて、生徒に伝える」。その言葉通り、自分で理解し直してから、目の前の一人へ届ける。

この学び方そのものが、篠田先生という指導者を表しています。

WHAT SHE IS REALLY TEACHING

篠田先生が教えているのは、「バレエを続ける方法」だけではない

篠田先生、ベーシックコース、そしてプロフェッショナルコースを通して、毎回の学びをご自身の経験と照らし合わせ、丁寧な言葉にして届けてくださりありがとうございました。

篠田先生の回答やレポートを読み重ねるほど、「安全なバレエ指導」という言葉だけでは収まりきらない人物像が見えてきます。

身体が硬くてもいい。

運動が得意でなくてもいい。

プロを目指さなくてもいい。

勉強や仕事が大切な時期があってもいい。

怪我や病気で、以前と同じように踊れなくなることがあってもいい。

妊娠や出産、育児で、バレエから距離ができることがあってもいい。

それでも、自分の心と身体に目を向ける方法として、バレエは人生の中に残ることができる。

バレエを人生の足かせではなく、
自分の心身と長く付き合っていくための相棒へ。

篠田先生が目指しているのは、先生の言う通りに踊れる生徒を増やすことではないのだと思います。

今の自分がどんな状態なのかに気づく。

できないときに、工夫してみる。

痛いときに、痛いと言える。

必要なときには休む。

分からないときには人に助けを求める。

自分に必要な距離を、自分で選ぶ。

そして、人生が変わったら、そのたびに自分とバレエの関係を考え直す。

自分の身体を見て、自分で考え、自分で選択できる人を育てること。

そのための一つの方法として、篠田先生はバレエを教えていらっしゃるのかもしれません。

「バレエが人生の一番でなくてもいい」という言葉は、バレエの価値を小さくする言葉ではありません。

むしろ、人生の中心でなくなってもなお残るほど、バレエを長く、深く、人の生活へ根づかせようとする言葉です。

幼い子どもから大人まで、それぞれの人生の中に、それぞれのバレエの居場所をつくる。

篠田先生が広げようとしている「生涯スポーツ・生涯芸術としてのバレエ」は、これからの日本のバレエの裾野を考える上でも、大切な一つの可能性なのではないでしょうか。

バレエ安全指導者資格®事務局

SAFE DANCE TEACHERS MAP

バレエ安全指導者資格 安全指導者MAP

各コースで学ばれた先生がいらっしゃる全国のスタジオを、お教室選びや相談先を探す際の参考にご覧いただけます。

※ピンをクリックすると、学ばれた先生のお名前やスタジオが表示されます。

執筆:バレエ安全指導者資格®事務局

提出レポートとインタビュー内容をもとに、学び続ける先生方の歩みと、それぞれの指導に込められた願いをご紹介しています。

NEXT STEP

身体だけでなく、その人の人生まで見られる指導へ

解剖学、整形外科学、栄養、女性の健康、心理、発達、音楽、歴史、指導法。バレエ安全指導者資格®︎では、バレエを一つの専門だけで捉えず、生徒の身体・心・生活を横断して考えるための学びを提供しています。

バレエ安全指導者資格®︎
運営 セーフダンスアソシエーション
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