自分の努力に、
期待できるように。磯野 加奈子 先生|大阪・スタジオテラ
誰かと比べるだけではなく、昨日の自分より少し成長できたことを喜べるように。自分の身体を知り、考え、挑戦することそのものを楽しめる教室へ。大阪・スタジオテラの磯野加奈子先生が、地域の人たちと育んできた時間と、学び続ける思いをご紹介します。
バレエを習うことは、何か一つの正解を追い求めるだけなのでしょうか。
音楽を聴き、身体を動かし、少しずつ変わっていく自分に気づくこと。友人と笑い合うこと。年齢の違う人と同じ舞台に立つこと。そんな日々の経験にも、バレエを学ぶ意味があります。
大阪市・寺田町で「スタジオテラ」を運営されている磯野加奈子先生は、3歳から70代までの方々と、バレエやバレエを基にしたエクササイズを通して関わっていらっしゃいます。
先生が大切にされているのは、誰かの評価だけに頼るのではなく、一人ひとりが自分の身体を理解し、小さな変化を喜びながら、努力を楽しめるようになることです。
第2子の出産後、身近な方々とのエクササイズから始まった教室は、今では子どもたちや大人の方々が集う地域の場所へ。磯野先生の活動と、バレエ安全指導者資格®での学びをご紹介します。
大阪・寺田町の「TERRA」。長く、深く、つながる場所。
大阪市の寺田町で「スタジオテラ」を運営されている磯野加奈子先生。3歳の子どもから70代の大人まで、バレエやバレトン、バレエの身体の動かし方をもとにしたエクササイズを通して、幅広い世代の方々と関わっていらっしゃいます。
「テラ」という名前には、教室のある寺田町という地域の名前と、ラテン語で大地や地球を意味する「TERRA」、二つの思いが重なっています。
この場所に足を踏み入れた人たちと、バレエを通して、垣根なく広く深くつながっていきたい。そんな願いを込めて名づけられました。
- お名前
- 磯野 加奈子 先生
- 活動地域
- 大阪府大阪市・寺田町
- 教室
- スタジオテラ/STUDIO TERRA
- 対象
- 3歳から70代まで
- 指導
- バレエ・バレトン・バレエを基にしたエクササイズ
- 資格・学び
- バレトン ソールシンセシス インストラクター/バレエ安全指導者資格®ベーシック講座修了/認定バレエ姿勢ベーシックインストラクター
磯野先生が最も大切にされているのは、踊りの技術だけを高めることではなく、バレエを通して自分自身と向き合うこと。教室が生まれた経緯にも、その教育観につながる経験がありました。
産後の身体の変化から始まった、小さな教室。
磯野先生が指導を始められたきっかけは、第2子を出産された後のことでした。
幼い頃から長くバレエを続けてきた先生にとって、ある程度の体力があることは当たり前でした。しかし出産後、以前とは大きく異なる身体の状態に気づき、筋力や体力の低下を実感されたそうです。
身近には、同じように産後の身体に悩みを持つ方々がいました。助産師の友人に相談し、産後の身体について教わる中で、バレエの基礎を使ったエクササイズにも活かせる部分があると気づきます。
「一緒に身体を動かしてみませんか」。その小さな働きかけが、スタジオテラの出発点になりました。
現在も、赤ちゃんと一緒に参加される方がいらっしゃいます。泣いたらあやしたり、横で寝かせながら身体を動かしたり。予定したプログラム通りに進まないこともあります。
でも、産後の方にとって大切なのは、決められた運動を一時間で終えることだけではないのでしょう。赤ちゃんと一緒に出かけられる場所があること。誰かと会い、話し、身体を動かせること。その時間そのものが、日常を支えることもあります。
身体を動かすことと、誰かにつながること。
スタジオの始まりには、完成された事業計画よりも、身近な人の困りごとと、自分にできることがありました。磯野先生は「何がしたいか」よりも「何が出来るか」を考え、伝えたい気持ちが膨らんだときに指導を始めたと振り返られています。
3歳から続く、バレエとの時間。
磯野先生がバレエを始めたのは3歳の頃。お友達ができれば、とお母様が近くの教室に連れていってくださったことがきっかけでした。
その後も長くバレエを学び、発表会や作品づくりの中で、身体を動かす楽しさだけでなく、音楽や物語を踊りで表す魅力に触れてきました。
とりわけ大切にされているのが、一つの舞台をつくるためには、踊る人だけではなく、さまざまな人の支えがあるということです。今も生徒たちに、舞台を支える人たちへの感謝を伝えたいと考えています。
そして、何年踊り続けても、バレエには新しい発見があります。毎日の基礎レッスンでも、その日の身体の感覚や音楽の受け取り方によって、見えてくるものが変わります。
毎回心が熱くなります」磯野加奈子先生・インタビューより
そのように長く向き合ってきたバレエだからこそ、今の子どもたちにも、上達の結果だけではなく、踊る時間そのものを楽しんでほしい。磯野先生の思いは、日々のレッスンにもつながっています。
美しさは、一つだけではない。ニューヨークで出会った風景。
大学卒業後、ニューヨークへ留学した磯野先生は、StepsやBroadway Dance Centerなどのオープンクラスで、クラシックバレエをはじめ、さまざまなジャンルの踊りに触れました。
そこには、年齢も、体型も、肌の色も、技術の水準も異なる人たちが、同じ空間で踊る風景がありました。自分の身体で、生き生きと表現するダンサーたちの姿が印象に残っているそうです。
非常に高い技術を持ったダンサーが参加していても、周囲の人たちは自然に声をかけ、互いを尊重していました。その経験は、バレエが持つ包容力を感じる機会になりました。
技術の違いがなくなるわけではありません。それでも、同じ音楽に耳を傾け、同じバレエに向き合う時間は、一人ひとりに開かれています。
磯野先生が今、教室で大切にされているのは、芸術としての高い美しさを尊重しながら、それぞれの身体や感じ方にも目を向けること。バレエとの関わり方は、ひとつではないということです。
「できない」を、一緒に考える指導へ。
長くバレエを続けてきた磯野先生は、指導者として生徒の前に立つようになってから、「教えること」とは何かを、あらためて考えるようになったそうです。
その背景には、ご自身が踊りを学ぶ中で経験した、忘れられない問いかけもあります。
一生懸命練習していても、思うように身体が動かない。自分でも理由がわからないときに、「どうしてできないの?」と尋ねられ、答えに困ったことがあったといいます。
できるようになりたい気持ちはある。それでも、どこを変えればよいのかがわからない。そんなとき、必要なのは、もう一度頑張るように促すことだけではなく、何が難しいのかを一緒に探すことなのかもしれません。
絶対に言いません」磯野加奈子先生・インタビューより
磯野先生がこの経験をお話しくださったのは、過去の指導を評価するためではありません。指導する側の言葉が、学ぶ側にはどのように届くのか。そのことを、自分自身の指導の中で大切にしたいからです。
現在のレッスンでは、「どこが難しいかな」「どこに力が入っている?」「さっきと何が違った?」と問いかけ、生徒と一緒に身体の感覚を確かめます。筋肉の動きが伝わりにくいときにはゴムを使い、身近な例えやオノマトペを取り入れることもあります。
指導を始めた頃は、時間配分やプログラムを予定通り進めることに意識が向いていたそうです。でも今は、目の前の生徒の理解に合わせて、説明を変えたり、立ち止まったりすることにも意味を見いだしています。
美しい動きを実演することも、大切な指導方法の一つです。しかし、それと同じくらい、一人ひとりに伝わる方法を見つけることも、教師の仕事です。磯野先生が今も学び続ける理由は、そこにあるのだと思います。
人と競うより、今日の自分に期待できるように。
生徒と一緒に難しさの理由を考えることは、努力の価値を否定することではありません。むしろ、一人ひとりが自分の成長を感じ、前向きに努力を続けられるようにするための指導でもあります。
ほかの子より上手に踊れたか。誰が褒められたか。そうした比較が、時には頑張るきっかけになることもあります。でも、他人との比較だけを目標にすると、その相手がいなくなったときに、何のために踊っているのかわからなくなることがあります。
そこで磯野先生が大切にされているのが、周囲と比べた順位ではなく、自分がどのように変化したかを感じることです。
だから現在のレッスンでは、先週の自分と今週の自分、今日の1回目と3回目の動きの違いを伝えるようにしているそうです。
筋力トレーニングや柔軟の記録を使うのも、誰かに勝つためではなく、自分の変化に気づいてほしいから。ほんの少しでも、以前より理解できたこと、できるようになったことに目を向けています。
「マカロニを食べるより楽しい!」
子どもたちが腹筋の練習中に思いついたという、ユニークな掛け声。最初はつらいと言っていた練習が、いつの間にかみんなで笑い合う時間に変わっていたそうです。
教師があらかじめ決めた言葉ではなく、子どもたち自身が見つけた楽しみ方。そんな自由な発想も、磯野先生は大切にされています。
「頑張りなさい」と言われるから頑張るのではなく、自分が変わっていくことを感じられるから、もう一度やってみたくなる。
そこには、バレエの技術だけにとどまらない、学ぶことそのものの喜びがあるのだと思います。
「難しい」と言えること。その日の自分で来られること。
磯野先生が何より大切にされているのは、信頼関係です。
バレエ以外の話も、時間の許す限り聞く。子どもの様子がいつもと違えば、何かあったのかと気にかける。学校の授業で疲れた日も、友達とのことで気持ちが落ち着かない日もあります。
そんなとき、教室に来る前から気持ちを切り替えていなくてもよいと、磯野先生は考えています。
レッスンをしているうちに夢中になり、帰る頃には少し元気になっている。それもまた、教室で過ごす時間の大切な意味なのでしょう。
もちろん、必要なときには安全のために厳しく伝えることもあります。それでも、子どもが「先生、これが難しい」「私はこう感じる」と伝えられる関係をつくることは、変わらず大切にされています。
自分の身体のことを自分で理解するためには、疑問を持つことが必要です。そして、疑問を安心して口にできる環境も必要です。
疑問に感じれること。
質問が出来る環境にあること」磯野加奈子先生・インタビューより
教室で育てようとしているのは、先生の言う通りに動けることだけではありません。自分で感じ、気づき、考え、必要なときには助けを求められる力でもあります。
型を大切にするからこそ、心の自由を忘れない。
磯野先生は、バレエについて「美しくて尊くて手の届かない憧れ」と表現されています。
そして、どれほど長く踊り続けても、完璧にできたと思えたことはない。それでも、バーレッスンの音楽が流れるたび、心が熱くなるのだそうです。
バレエには、長い時間をかけて受け継がれてきた型と、身体の使い方があります。そこに近づこうとする積み重ねも、芸術の大切な一部です。
一方で、決まった形をただ再現することが、表現のすべてではありません。
磯野先生は、発表会で『くるみ割り人形』に取り組んだ際、子どもたちと絵本を読んだり、物語の登場人物が何を感じているのか話し合ったりしたそうです。その後、子どもの踊りから、それまでとは違う表情や感情が感じられたといいます。
動作の形を教えることと、その動きをどう感じて踊るかを考えること。その両方があって、バレエは芸術として豊かになっていきます。
技術の基礎を尊重することと、生徒の内側にある表現を尊重すること。磯野先生は、その二つを大切にされています。
知識が増えるほど、子どもへの問いかけが変わっていく。
子どもたちの指導が増えるにつれ、磯野先生は、成長期の身体に対する責任を一層強く感じるようになったといいます。
身体の特徴が違う子どもたちに、同じ方法を当てはめてよいのだろうか。自分が教わってきた方法は、どのような根拠に基づいているのだろうか。
その問いから、バレエ安全指導者資格®での学習が始まりました。
解剖学や姿勢の講義では、それまで感覚的に使っていた「引き上げる」という言葉を、身体の仕組みと結びつけて考えるようになりました。講義後には、呼吸を変えながら身体を伸ばす感覚の違いを、実際のレッスンで生徒に体験してもらったそうです。
また、フランス語の講義では、バレエを完成したポーズではなく、動きの過程として捉える視点を学ばれました。音楽や言葉の響き、動きの質感についても、あらためて考えるようになったといいます。
学んだ内容をそのまま伝えるだけでなく、目の前の生徒に合わせて問いかけを変え、体験できるようにする。そうした工夫が少しずつ増えています。
答えが増えるだけではなく、新しい疑問も生まれる。
講義後のレポートには、「引き上げとは何か」「どこに、どのように力を入れると伝わるのか」と、さらに深まった疑問が記されています。学ぶことで簡単にわかった気になるのではなく、以前より具体的に問いを持てるようになる。その姿勢が、日々の指導に表れています。
学びを重ねる中で、身体の仕組みについての理解や説明の選択肢が増え、指導への自信も少しずつ育ってきたと振り返られています。
身体の違いを知り、必要なときは専門家につながる。
磯野先生が大切にされているのは、一人ひとりの身体には違いがあるということです。
足の形や関節の可動性、身体の使い方、日頃の姿勢。生徒によって、得意な動きも難しい動きも異なります。だからこそ、全員に同じ方法を当てはめるのではなく、その子の状態をよく知ることが必要だと考えています。
姿勢について学んでからは、レッスン中だけでなく、普段の立ち方や身体の使い方にも目を向けるようになったそうです。レッスン以外の時間の方が、ずっと長いからです。
一方で、痛みや身体の不調については、教師の判断だけで対応できないこともあります。
磯野先生は、SDAの講義を通して、怪我や続く痛みがある場合に医療機関へつなぐ重要性を再確認されました。また、判断に迷うことをSDAへ相談できることも、指導者としての支えになっているといいます。
さらに、災害時の対応についての学びをもとに、スタジオで必要な備えを整理されたこともお話しくださいました。日々のお稽古だけでなく、もしものときにどのように生徒を守るか。そうした準備も、教室を支える大切な仕事です。
親子も、世代も超えて。地域にある、もう一つの居場所。
磯野先生にとって、バレエ教室は技術を学ぶ場所であると同時に、人と人がつながる場所でもあります。
ご自身も小学5年生の頃に引っ越しを経験し、学校や友人関係が変わった中で、通い続けられたバレエ教室が大切な心のよりどころになったと語ってくださいました。
家とも学校とも違う、もう一つの場所。そこには、別の学校に通う友達や、年齢の異なる人たちとのつながりがあります。
今では、子どもが先にバレエを始め、その姿を見て保護者の方も踊りたくなることがあるそうです。実際にやってみると、子どもたちが普段どれほど難しいことに取り組んでいるのかがわかり、親子の間に新しい共感が生まれます。
また、子どもと大人が同じ舞台をつくるときには、普段の年齢や立場を超えて、同じ作品に向き合う仲間になることもできます。
産後に赤ちゃんと一緒に通えることも、学校以外の世界で子どもが安心して過ごせることも、何歳になっても踊りを楽しめることも。すべては、一人ひとりの人生の中に、バレエがあるということなのでしょう。
地域に根ざした小さな教室だからこそ、日々の暮らしと長く関わり続けられる。スタジオテラという名前に込められた願いは、こうした一つひとつの関係の中に息づいています。
自分自身の努力に期待できる心を、次の世代へ。
磯野先生、これまでの経験と、日々のお稽古で大切にされている思いを、丁寧にお聞かせくださりありがとうございました。
今回のお話で印象に残ったのは、ご自身が学ぶ中で感じてきた難しさを、今の生徒の気持ちや身体を理解するための手がかりにされていることです。
お話を伺い、改めて感じたのは、指導者の仕事が、正しい動きを教えることだけではないということです。
難しいと感じる理由を、一緒に考える。
身体の特徴を、可能性を決めつけるためではなく、理解するために知る。
人と比べるだけではなく、自分の小さな変化に気づく。
うまくいかないときにも、一人で理由を抱え込まず、これから何を試せるかを一緒に考える。
そして、バレエを学ぶ時間が、学校や家庭とは違う人とのつながりになり、人生の中で長く残るものになっていく。
磯野先生は、バレエを「孤高の存在」と表現されました。どれほど学び続けても簡単には到達できない美しさがあり、その憧れがあるからこそ、何度でもバーに立ちたくなる。
でも、その美しさに向かう道のりは、誰かと比べて自分を否定する時間である必要はないのでしょう。
この言葉には、長くバレエと向き合い続けてきた先生の実感と、今、子どもたちに届けたい思いが込められているように感じます。
上手に踊れる人になることだけを目指すのではなく、自分の身体を知り、自分で考え、努力の過程にも喜びを見つけられる人へ。
磯野先生の学びが、資格取得の一時点で終わるのではなく、これからも教室で出会う一人ひとりとの時間の中で、生き続けていくことを願っています。
バレエ安全指導者資格®事務局
バレエ安全指導者資格® 安全指導者MAP
各コースを修了された先生がいらっしゃる全国のスタジオを、お教室選びや相談先を探す際の参考にご覧いただけます。
バレエを通して、人を育てる。
解剖学・医学・栄養・心理・教育・哲学・音楽・歴史・芸術。バレエ安全指導者資格®では、正しい技術を伝えるためだけでなく、目の前の一人を理解し、安全に判断するための学びを提供しています。
