コンクールが盛んな今、大人が考えたい。評価されるためではなく、育つためのバレエ。

子どもとバレエと教育|私たち大人が提供しているバレエは、子どもの何を育てているでしょうか|バレエ安全指導者資格®
BALLET / CHILDREN / EDUCATION

子どもとバレエと教育 私たち大人が提供しているバレエは、子どもの何を育てているでしょうか。

子どもがバレエを習う理由は、家庭によってさまざまだと思います。

姿勢がきれいになってほしい。
身体を動かす習慣を身につけてほしい。
音楽や芸術に触れてほしい。
舞台に立つ経験をしてほしい。
集中力や礼儀を身につけてほしい。

あるいは、子ども自身が
「バレエをやりたい」と言ったから。

それぞれバレエを始められる理由はあるでしょう。

でも、子どもが何年もバレエを続けていくのであれば、
私たちはもう少し深いところまで考えてみてもよいのではないでしょうか。

バレエを通じて、
その子はどのような人に育っているのでしょう。


バレエは、週に一度身体を動かすだけの時間ではありません。

先生の言葉を聞き、自分の身体と向き合い、
友だちと比べ、舞台に立ち、失敗し、評価され、
ときには悔しい思いをする。

子どもにとってバレエスタジオは、
一つの小さな社会です。

だからこそ、そこで何を経験するかは、
その子の成長に少なからず影響します。

今回は保護者の皆さんと一緒に、
「子どもにとって、バレエはどのような教育になっているのか」
を考えてみたいと思います。

WHAT IS IN THEIR MIND?

踊っているとき、
子どもの頭の中には何があるでしょうか。

少し想像してみてください。

お子さんがレッスンを受けているとき、 頭の中には何が浮かんでいるでしょうか。

「先生に怒られないようにしなきゃ」

「間違えたら恥ずかしい」

「先生に褒めてもらいたい」

「お母さんに喜んでもらいたい」

「もっと前の列に行きたい」

「コンクールで賞を取りたい」

もちろん、そのような気持ちを持つこと自体が悪いわけではありません。

子どもが親に褒めてもらいたいと思うことも、 先生に認めてもらいたいと思うことも、 ごく自然なことです。

問題は、
それだけになっていないか。

先生に怒られないために踊る。

親をがっかりさせないために踊る。

順位を落とさないために踊る。

周りより上手に見えるために踊る。

そうした時間が長く続けば、 いつの間にか子どもにとってバレエは、

「自分が好きだからすること」から、

「誰かの期待に応えるためにすること」へ
変わっていくことがあります。
PRAISE AND SELF-WORTH

「褒められる子」になることが、
教育の目的でしょうか。

私たち大人は、つい結果を見ます。

発表会 上手に踊れた
コンクール 賞を取った
配役 良い役をもらった
先生 褒められた
進路 有名な学校に合格した
周囲 「すごい」と言われた

もちろん、それらは努力の成果です。

子どもと一緒に喜んでよいことだと思います。

でも、結果ばかりを喜んでいると、 子どもの中で少しずつ、

「うまくできた自分には価値がある」

「選ばれた自分には価値がある」

という感覚が強くなることがあります。

そして反対に、

選ばれなかった。
賞を取れなかった。
注意された。
役を外された。
留学できなかった。

そんな出来事が起きたとき、

「今回はうまくいかなかった」ではなく、

「私はダメなんだ」

と感じてしまうことがあります。

だからこそ、私たち大人が見てあげたいのは、 結果だけではありません。

昨日より少し身体の使い方が分かったこと。

怖かったことに挑戦したこと。

失敗したあと、もう一度やってみたこと。

音楽をよく聞けたこと。

友だちと一緒に作品をつくったこと。

自分で考えたこと。

自分の身体の変化に気づいたこと。

そうした一つひとつも、 バレエが育てる大切な力です。

THE EDUCATIONAL POWER OF BALLET

バレエには、
子どもを育てる大きな可能性があります。

バレエには、教育として非常に豊かな要素があります。

身体 身体を動かしながら学ぶ
音楽 音を聞き、リズムを感じる
空間 自分と周囲の位置関係を認識する
記憶 決められた順序を覚える
協働 人と動きを合わせる
継続 何度も練習する
挑戦 すぐにできないことに向き合う
表現 言葉だけでは表せないものを身体で伝える

これほど多くの学びが一つに集まっている習い事は、 実はそれほど多くありません。

だから私は、 バレエには大きな教育的価値があると思っています。

ただし、それは、
バレエを習えば自動的に得られるものではありません。

どのように教えられるか。

どのような言葉をかけられるか。

失敗したときにどう扱われるか。

身体についてどのように教えられるか。

親や先生が結果をどう捉えるか。

そこによって、
同じバレエでも、子どもが受け取る教育は大きく変わります。
FEELING THE BODY

「自分の身体を感じる子」か、
「自分の身体を監視する子」か。

バレエには鏡があります。

先生がいます。

周囲には他の生徒がいます。

発表会では観客がいます。

コンクールでは審査員がいます。

今ではSNSで写真や動画を見る機会も増えています。

つまりバレエを習う子どもたちは、 とても早い年齢から、

「自分がどう見えるか」

を意識しやすい環境にいます。

でも本来、踊るということには、

床をどう感じるか。

身体の重さはどこにあるか。

呼吸はどうなっているか。

音楽をどう感じるか。

相手との距離をどう感じるか。

今日の身体は昨日と何が違うか。

という、 「自分の身体を内側から感じる経験」 があります。

ところが、

「脚が低いと思われないかな」

「先生に怒られないかな」

「太って見えないかな」

「隣の子より下手じゃないかな」

ということばかりを考えるようになると、 身体を感じるのではなく、

身体を外から見張るようになります。

これは、同じ鏡を見ていても まったく違う経験です。

子どもに育ってほしいのは、
どちらでしょうか。

LEARNING TO THINK

「言われたことができる子」だけで、
よいのでしょうか。

バレエは、型のある芸術です。

ポジションがあります。

身体の使い方があります。

決められた動きがあります。

だから先生から学ぶことは欠かせません。

「好きなように踊ればいい」 というものではありません。

でも、先生の言ったことをそのまま再現する能力だけを 育てればよいのかというと、 私はそうではないと思います。

なぜ、このポジションなのだろう。

どうすると安定するのだろう。

この音楽はどのように聞こえるだろう。

今の身体はどう感じているだろう。

どうすればもっと良くなるだろう。

自分はどんなふうに踊りたいだろう。

こうした問いを持てることも、教育です。

技術には基準がある。

でも、感じ方や表現まで、
一つの正解にする必要はありません。

きちんとした基礎を学びながら、 自分でも考えられるようになること。

それこそが、 バレエ教育の成熟した姿ではないでしょうか。

FROM OBEDIENCE TO AUTONOMY

「先生に言われたから」から、
「私はこう考える」へ。

子どもの成長を考えるとき、 私はここがとても大切だと思っています。

幼い頃は、 「先生が言ったからやる」 でも構いません。

でも、成長するにつれて少しずつ、

「なぜそうするんだろう」

「私はどう思うんだろう」

「これは自分に必要なのだろうか」

と考えられるようになってほしい。

それはバレエだけの話ではありません。

学校 どこで、何を学ぶか
仕事 どの道を選ぶか
人間関係 誰と、どう関わるか
身体と健康 自分に必要なことをどう判断するか
バレエを通じて、

言われたことを守る力だけでなく、
自分で考え、選び、判断する力まで育てることができたら。

それは、とても価値のある教育になると思います。
WHAT PARENTS CAN DO

親ができることは、
「正しい答え」を与えることではありません。

では、保護者はどう関わればよいのでしょうか。

いつも正しい言葉をかけなければいけないわけではありません。

専門家になる必要もありません。

むしろ大切なのは、 子どもの中にある答えを聞くことかもしれません。

「今日は先生に褒められた?」 だけではなく、
「今日はどんなことがおもしろかった?」
「上手にできた?」 だけではなく、
「自分ではどう感じた?」
「何位だった?」 だけではなく、
「踊っているとき、どんな感じだった?」
「次はもっと頑張ろう」 の前に、
「悔しかったね」

そして、ときには、 「最近バレエどう?」 と聞いてみる。

そこで子どもが、 「最近、あまり楽しくない」 と言ったとしても、 すぐに否定しない。

「そんなこと言わないの」

ではなく、

「そうなんだ。何かあった?」

バレエを続けさせることよりも、
子どもが自分の気持ちを話せる関係を守ること。

それは、保護者にしかできない 大切な役割です。

NOT ANOTHER RIGHT ANSWER

「自分のために踊りなさい」も、
新しい正解にしない。

ここで一つ、 気をつけたいことがあります。

それは、

「人のためではなく、
自分のために踊りなさい」

という言葉さえ、 新しい正解にしないことです。

先生に褒めてもらいたい。

親に見てもらいたい。

友だちと一緒に踊りたい。

観客を喜ばせたい。

そういう気持ちも、 芸術の大切な一部です。

人は一人だけで育つわけではありません。

誰かに認めてもらう喜びもあります。

誰かに届ける喜びもあります。

他人の存在を消す必要はありません。

大切なのは、
他人の期待の中で、自分まで消してしまわないこと。
WHAT DO WE WANT TO NURTURE?

バレエを通して、
育てたいものは何でしょうか。

上手な子。

コンクールで結果を出せる子。

先生から評価される子。

難しいテクニックができる子。

もちろん、それも一つの成長です。

でも、その先に、

自分の身体を感じられる人。

自分の気持ちを言葉にできる人。

うまくいかなかったときに考え直せる人。

人と比べるだけでなく、自分の成長を見られる人。

分からないことを尋ねられる人。

自分で選択できる人。

そして、誰かの評価がなくても、自分の人生を歩いていける人。

そんな成長までバレエが支えることができたなら、

バレエは単なる習い事ではなく、
その子の人生に残る教育になります。

ONE QUESTION

最後に、
子どもに聞いてみたいこと。

もし一つだけ、 子どもたちに問いかけるとしたら、 私はこんな質問をしてみたいと思います。

「あなたが踊っているとき、
その踊りの中に、あなた自身はいますか?」

すぐに答えられなくても構いません。

「分からない」でもいい。

先生に褒めてもらいたい日があってもいい。

コンクールで勝ちたい日があってもいい。

バレエが嫌になる日があってもいい。

その一つひとつを自分で感じ、 考えられること。

そして、それを安心して話せる大人が そばにいること。

そこから教育は始まるのだと思います。

私たち大人が考えたいのは、

「どうすればこの子をもっと上手にできるか」

だけではありません。

「このバレエという経験が、
この子の成長にとってどのようなものになっているだろう」

ということです。

子どもがバレエを習っている時間は、 踊り方を学んでいる時間であると同時に、

人との関わり 他者とどう関わるかを学ぶ
身体 自分の身体との付き合い方を学ぶ
評価 評価との向き合い方を学ぶ
自分自身 自分との付き合い方を学ぶ

だからこそ、

子どもとバレエを考えることは、

そのまま、
子どもと教育を考えることなのだと思います。

SAFE DANCE ASSOCIATION

「安全」を、
身体だけの問題にしないために。

バレエ安全指導者資格®では、 怪我の予防や身体の使い方だけではなく、 成長期への配慮、心理的安全、 生徒・保護者との関係、 指導者の判断など、 子どもがバレエを学ぶ環境全体について考えています。

子どもが長く、健康に、 そして自分自身を失うことなく バレエと関わっていくために。

上手にすることだけではなく、

その子がどのように育っているのかまで考えられる指導へ。

私たちも、 これからのバレエ教育について、 引き続き考えていきたいと思います。

バレエ安全指導者資格®
運営: Safe Dance Association (セーフダンスアソシエーション)
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