李栄喜先生|指導者の「想い」をシェアするコラム

経験を問い直し、次の世代へよりよいバレエを|李栄喜先生
バレエ安全指導者資格®コラム

経験を問い直し、
次の世代へよりよいバレエを李 栄喜先生|三重県桑名市・studio Plum主宰/バレエ指導者・ダンサー

長い舞台経験や指導実績を、自分の正しさの証明にするのではなく、目の前の生徒をより深く理解するための土台にする。李栄喜先生が大切にしているのは、身体の仕組みを知り、心に耳を傾け、生徒自身が考えながら育っていける指導です。

読了目安:約18分執筆:バレエ安全指導者資格®事務局

越智インターナショナルバレエで長年舞台に立ち、『白鳥の湖』『くるみ割り人形』の主役をはじめ、古典全幕のソリスト、群舞、キャラクターダンス、バランシン作品、コンテンポラリーまで幅広く経験してきた李栄喜先生。現在は三重県桑名市でstudio Plumを主宰し、子どもから大人までを指導されています。

それだけの経験と実績を持ちながら、李先生の受講レポートに繰り返し現れるのは、「まだ学ぶことがある」「自分の指導を見直したい」という言葉です。過去を否定するのではなく、そこから学び、今の生徒たちへより安全で、長く、豊かなバレエを手渡していく。その率直で誠実な歩みに、事務局として何度も心を動かされました。

このシリーズでは、バレエ安全指導者資格®を修了された先生方の学びと、その先にある指導への願いをご紹介しています。今回は、ベーシックコースと第7期プロフェッショナルコースを通して、身体、栄養、心理、音楽、歴史、メソッドを学び直された李栄喜先生です。提出レポートと公開されている活動歴をもとに、李先生が大切にされていることを事務局の視点からお届けします。
A LIFE SHAPED ON STAGE

主役だけではなく、舞台全体を支える役を知っている

李先生の舞台歴を特徴づけるのは、華やかな主役経験だけではありません。『白鳥の湖』『くるみ割り人形』で主役を踊りながら、『眠れる森の美女』『ラ・バヤデール』『ドン・キホーテ』『ジゼル』『海賊』『コッペリア』などの全幕作品で、ソリストや群舞、物語を支える役を数多く経験されています。

さらに、キャラクターダンス、コンテンポラリー、ジョージ・バランシン振付『アポロ』のカリオペなど、作品によって異なる身体の使い方、音楽性、役柄の表現にも向き合ってきました。

主役の責任も、群舞の役割も、
作品全体で観客へ届けることも知っている。

その経験は、李先生の指導にある「観客に何を伝えるのか」「舞台において個々を最大限に生かすにはどうするのか」という問いにつながっています。

一つのヴァリエーションをきれいに完成させるだけではなく、音楽、物語、共演者との関係、舞台上の空気まで含めて踊りを考える。長い舞台経験は、李先生の中で、技術を誇るためではなく、舞台芸術の奥行きを次の世代へ伝えるための土台になっています。

活動地域
三重県桑名市
主宰
studio Plum
主な経験
古典全幕/キャラクター/バランシン/コンテンポラリー
修了コース
ベーシック/プロフェッショナル
THE STAGE IS BUILT TOGETHER

発表会を、踊りだけではない学びの場にする

李先生にとって、発表会は日頃の成果を見せるだけの場所ではありません。

全幕作品へ取り組む中で、物語の流れを理解し、観客へ何を伝えるかを考える。長い時間を踊り切る体力と精神力を育てる。リハーサルの中で起きた問題を、仲間と話し合いながら解決する。そして、舞台が家族、教師、スタッフ、共演者、観客など、多くの人の力によって成り立っていることを知る。

「一人で舞台は成り立たない」という実感

主役にも、群舞にも、それぞれの責任があります。自分の踊りだけがよければよいのではなく、相手を感じ、音楽を共有し、作品の一部として役割を果たすことが求められます。

李先生が発表会を通して育てたいのは、テクニックだけではなく、協働する力、最後まで向き合う力、支えてくれる人への感謝、観客へ届けようとする責任感です。

長年、作品のさまざまな場所に立ってきた李先生だからこそ、舞台の中心にいる人だけではなく、舞台を支える一人ひとりの価値を知っています。そのまなざしは、目立つことや順位だけでは測れない、生徒それぞれの成長を見つける力にもつながっているように感じます。

EXPERIENCE THAT REMAINS OPEN TO LEARNING

長く踊り、教えてきたからこそ、もう一度学び直す

李先生は、長年の舞台経験に加え、ピラティス、ヨガ、Balletone、BarreWRXなど、複数の身体アプローチを学んできました。それでも受講レポートには、「まだまだ知識が不足している」「分かっているようで分かっていなかった」と、率直な言葉が記されています。

これは、ご自身の経験を否定しているのではありません。経験だけでは説明できなかったことを、解剖学、医学、栄養学、生体力学、心理学、音楽、歴史の知識によって、もう一度理解し直そうとされているのだと思います。

資格を持っていることよりも、
足りないものに気づき、学び続けられること。

現役時代には、テクニックやアンデオールの形をつくることに懸命になり、負傷が多かったこと。若い頃の指導では、教わった先生の言葉や方法をコピーするように伝えていたこと。少ない知識で可動域を広げようとしていたこと。

振り返るには勇気のいる経験を、李先生は隠したり正当化したりせず、現在の指導をよくするための材料として見つめています。

事務局として印象に残ったのは、李先生が学びを「自分が正しかったと確認するため」に使っていないことです。
新しい知識によって過去の経験を読み直し、必要な部分は変えていく。その柔軟さと誠実さこそ、長く指導を続ける先生の大切な力なのだと感じています。
THE RESPONSIBILITY OF CARING FOR A BODY

「生徒を預かる」ことの重さを、身体の学びへつなげる

李先生のレポートには、指導者としての責任を強く受け止める言葉があります。

生徒を預かる。人の身体を動かす。
自分の行動には、それだけの責任がある。李栄喜先生の受講レポートより

成長期の栄養、女性の月経、呼吸、側弯症、捻挫、足部機能、緊急時の対応。バレエの技術とは別の話に見える内容も、生徒が安全に学び、長く踊るためには切り離すことができません。

李先生は、ご自身の怪我を振り返りながら、「もっと早く知りたかった」と記しています。その思いは、過去への後悔だけではなく、今いる生徒に同じ苦しさを繰り返させたくないという願いへ変わっています。

怪我をしてから戻すだけでなく、まず防ぐことを教える

痛みを我慢して踊ることを努力と考えない。欠席するほどの怪我になる前に、身体の状態へ気づく。足指や足裏の機能、関節の安定、呼吸、栄養、休養を、日々のレッスンの中で少しずつ理解していく。

身体について知ることは、難しい専門知識を覚えるためではなく、生徒自身が自分の身体を守りながら踊る力を持つための学びです。

教師がすべてを診断し、解決することはできません。けれど、異変に気づき、無理を止め、保護者と共有し、必要な専門家へつなぐことはできます。李先生の学びは、指導者としてできることと、専門家へ委ねるべきことを見分けるための視野も広げています。

SEEING THE PROCESS, NOT ONLY THE SHAPE

外から見える形ではなく、身体の中で組み立てる過程を見る

動画や写真で見たダンサーと同じ形をつくろうとする。足をより外へ開こうとする。高く脚を上げようとする。バレエでは、外から見える完成形が強く意識されやすいものです。

しかし、骨格、関節の形、可動域、筋力、成長段階、これまでの経験は、一人ひとり異なります。同じ形を求めても、身体の中ではまったく違うことが起きている場合があります。

立つことも、アンデオールも、
外観ではなく、組み立てる過程を理解する。

李先生は、ターンアウト、骨盤の安定、重心、引き上げ、足部の働きを、別々の注意としてではなく、互いにつながる身体の仕組みとして理解しようとしています。

また、各国のバレエメソッドについても、一つを絶対的な正解として選ぶのではなく、それぞれの歴史と体系を尊重しながら、「何がこの生徒に当てはまるのか」を考えています。

これは、何でも自由に混ぜるという意味ではありません。
メソッドの違いを理解し、クラス全体の統一性を保ちながら、個々の身体や将来の環境に応じて、伝え方や課題を調整する。そのために、まず教師自身が体系を学ぶ必要があると李先生は考えています。
FROM TEACHING TO NURTURING

「教えるのではなく、育てること」

李先生のレポートの中で、特に大切に受け止めたい言葉があります。

教えるのではなく、育てること。李栄喜先生

教師が知っている正解を一方的に渡し、同じように動かせることだけを目標にするのではない。何を与えたら、相手の身体と心に何が起きるのかを考える。相手が理解できる言葉を選び、心地よく伸びていける環境を整える。

李先生は、「こうすればできる」と答えだけを伝えるのではなく、「なぜ今はできないのか」「どの準備が必要なのか」を説明したいと書いています。

生徒自身が、学び方を理解できるように

教師の見本をそのまま真似るだけでなく、自分の身体を感じる。分からないことを質問する。少しずつできるようになる過程を理解する。怪我を防ぐために、自分で考えて動く。

生徒を教師へ依存させるのではなく、いつか外の環境へ出ても、自分で学び続けられる力を育てることが、李先生の目指す指導につながっています。

studio Plumの発信にも、生徒自身が何を大切にし、どのように前へ進むのかを考えられるようになってほしいという願いが表れています。

厳密な基礎を教えることと、生徒の主体性を尊重することは対立しません。丁寧に基礎を学び、理由を理解するからこそ、生徒は自分の身体で選び、表現できるようになります。

BEYOND RANKINGS, TOWARD ART

順位の先に、観客へ伝わるバレエを育てたい

李先生は、複数のコンクールで優秀指導者賞、最優秀指導者賞を受賞し、クラシックだけでなく、モダンやコンテンポラリーの部門でも生徒を入賞へ導いています。

それほどの指導実績を持ちながら、李先生は、コンクールが生徒にとって他人との比較や順位を確認する場だけになっていくことへ、強い疑問を記しています。

心や感情が表現され、
観る人へ何かが伝わるダンサーを育てたい。

李先生が問題にしているのは、挑戦することや評価を受けること自体ではないのでしょう。一曲の結果だけで自分の価値を決めること、外から見える形だけが目的になること、作品の背景や感情、観客への伝達が置き去りになることへの問いです。

解剖学や生体力学を学ぶことも、李先生にとっては表現と別の問題ではありません。無駄な力を減らし、身体を安定させ、呼吸や音楽を感じられる余裕をつくる。その先に、役柄を生き、心を届ける表現があります。

結果を出せるからこそ、結果だけではない価値を伝える

コンクールで評価される技術を教えられることと、コンクールをバレエの最終目的にしないことは、矛盾しません。

李先生は、挑戦の機会を生徒の成長へつなげながらも、その人の価値やバレエの価値を、順位だけに預けない指導を目指しているのだと思います。

WORDS THAT MAKE LEARNING POSSIBLE

生徒の心情をくみ取り、言葉と関係を見直していく

心理学やハラスメントについて学んだ際、李先生は、ご自身の注意深さが十分ではなかったことや、時にマイナス方向の言葉かけをしていたことを振り返っています。

「悪気はなかった」と終わらせるのではなく、生徒にはどのように届いていたのか、もっと心情や状況をくみ取るために何が必要なのかを考えていることが伝わってきます。

頑張らせることと、安心して学べることを両立する

痛みを伝えても否定されない。分からないと言っても恥ずかしい思いをしない。失敗しても、次の方法を一緒に考えられる。将来の夢や迷いを話せる。

心理的に安心できることは、課題をなくすことではありません。必要な修正を丁寧に伝えながら、生徒が学ぶ力を失わない関係をつくることです。

李先生が何度も書いている「分かりやすく伝えたい」「話し方を工夫したい」という願いは、単なる説明技術の問題ではありません。目の前の生徒を理解し、その人に届く方法を探すという、関係づくりの姿勢です。

頑張ることも大事。
でも「楽しい」が、心の根底にあってほしい。李栄喜先生の受講レポートより
A TEACHER WHO STILL STEPS ONTO THE STAGE

過去の舞台を語るだけでなく、今も実践し、学び続ける

李先生は、越智インターナショナルバレエでの活動を終えた後も、完全に舞台から離れたわけではありません。近年も演技性の高い役や、studio Plumの発表会で自ら舞台に立っています。

指導席から生徒を見るだけでなく、自分も身体を整え、音楽を聴き、役を考え、本番へ向かう。その実践があるからこそ、年齢や身体の変化と向き合いながら踊ること、怪我を防ぐこと、舞台へ立つ責任を、現在進行形の感覚として伝えられます。

学んだその日に、生徒へ試してみる

呼吸や音のリズムが動きへ与える影響を学んだとき、李先生はすぐにレッスンで実践し、生徒の変化を確かめています。

知識を持っているだけで終わらせず、自分で動き、生徒へ伝え、反応を見て、また考える。その循環が、李先生の学びを現場の力へ変えています。

すべての講義をアーカイブで視聴し、提出期限と向き合いながら進めた二か月について、李先生は最後に「学ぶ楽しさが倍増しました」と記してくださいました。

知れば知るほど、自分の不足に気づく。それでも、その気づきを恐れず、もっと知りたいと思う。李先生の指導者としての自信は、すべてを知っていることではなく、必要なときに立ち止まり、学び、変わり続けられることから育っているのだと思います。

経験を閉じた答えにせず、次の学びへ開いていく。
A BETTER BALLET FOR THE NEXT GENERATION

自分が受け取ったバレエを、よりよい形で次の世代へ

李栄喜先生は、古典バレエの規律と美しさを知っています。主役の重さも、群舞の役割も、観客へ物語を届ける喜びも知っています。そして同時に、怪我を抱えて踊る苦しさや、理由を十分に理解しないまま形を求める危うさも知っています。

そのすべてを経験した現在、李先生が目指しているのは、過去を否定することでも、伝統をそのまま繰り返すことでもありません。

受け継いだものを大切にしながら、
生徒の身体と心に合う、よりよい形へ。

我武者羅に頑張らせる指導から、怪我なく効率よく、長く踊れる指導へ。教師の感覚をそのまま渡す指導から、理由と身体の仕組みを理解できる指導へ。順位や外見だけを追うバレエから、心と感情を観客へ届けるバレエへ。

そして、教師が答えを持ち続ける場所から、生徒自身が感じ、考え、選び、成長していける場所へ。

李先生のレポートから伝わってきたのは、完成された先生として見られたいという思いではありませんでした。知らなかったことを認め、過去の自分を振り返り、目の前の生徒のために、もう一度学び直そうとする誠実さでした。

先生が学び続ける姿は、生徒にも「今できなくても、これから知り、変わっていける」という安心を届けます。

李先生がstudio Plumで育てているのは、正しい形を再現できる生徒だけではありません。自分の身体を知り、仲間と舞台をつくり、観客へ心を届け、何よりも踊ることを長く楽しめる人です。

これまでの経験を、次の世代がより安全に、豊かに踊るための力へ。その歩みに、事務局としてこれからも寄り添い、学びをご一緒できることをうれしく思います。

バレエ安全指導者資格®事務局

CERTIFIED TEACHERS MAP

バレエ安全指導者資格® 安全指導者MAP

各コースを修了された先生がいらっしゃる全国のスタジオを、お教室選びや相談先を探す際の参考にご覧いただけます。

※ピンをクリックすると、コースを修了された先生のお名前やスタジオが表示されます。

執筆:バレエ安全指導者資格®事務局

提出レポートと公開されている活動情報をもとに、学び続ける先生方の歩みと、それぞれの指導に込められた願いをご紹介しています。

NEXT STEP

経験を大切にしながら、指導をもう一度見つめ直す

バレエ安全指導者資格®では、解剖学、栄養学、整形外科学、生体力学、心理、発達、音楽、歴史、指導法を横断して学びます。これまで積み重ねてきた経験へ新しい知識を加え、生徒一人ひとりの身体と心に、より丁寧に向き合える指導へ。

© バレエ安全指導者資格®
  • URLをコピーしました!