杉本音音先生|指導者の「想い」をシェアするコラム

踊ることが、心身の「栄養」になるように|杉本音音先生
バレエ安全指導者資格®コラム

踊ることが、
心身の「栄養」になるように杉本 音音先生|東京都・新体操指導者/ダンサー・振付家/セミナー講師

踊ることを、もっと頑張るためだけの時間ではなく、自分の身体を知り、心を整え、今日の自分を大切にする時間へ。杉本音音先生が目指しているのは、一人ひとりの身体と「踊りたい」という気持ちに寄り添いながら、その人に合う踊りを一緒に見つけていく指導です。

読了目安:約15分執筆:バレエ安全指導者資格®事務局

東京都内の教室で新体操を教えながら、フリーランスのダンサー・振付家としてコンテンポラリーダンスの活動を続ける杉本音音先生。クラシックバレエ、新体操、コンテンポラリーダンスという異なる世界を経験してきたからこそ、一つの形や方法だけにとらわれず、身体と表現をさまざまな方向から見つめています。

学びの中で杉本先生が何度も書いているのは、「長く、健康に踊ること」、そして「その人の身体だけのバレエを見つけること」です。知識を増やすことも、基礎を丁寧に積み重ねることも、すべては生徒が自分の身体を信頼し、踊る喜びを持ち続けるため。杉本先生の言葉からは、教える人として前に立ちながらも、生徒の隣で一緒に考え、発見を喜ぼうとする温かな姿が伝わってきます。

このシリーズでは、バレエ安全指導者資格®を修了された先生方の学びと、その先にある指導への願いをご紹介しています。今回は、ベーシックコースとプロフェッショナルコースを通して、身体、栄養、心理、音楽、歴史、表現を幅広く学び、現在はその経験と学びをセミナー講師として次の世代へ手渡している杉本音音先生です。
A PLACE TO RETURN TO YOURSELF

いつでも、自分の身体へ戻ってこられるバレエ

杉本先生にとってバレエは、「整えてくれるもの」であり、今も変わらない「憧れ」です。

コンテンポラリーダンスの活動や日常生活が続く中でも、バーレッスンをすると、自分の身体が今どのような状態なのかに気づくことができる。少し疲れていること、呼吸が浅くなっていること、以前より動きやすくなったこと。バレエは、外から見える形を整えるだけではなく、自分自身に静かに目を向ける時間になっています。

バレエは、心身の栄養のような、
自分の踊りの根っこのような存在。杉本音音先生

「自分はバレエが上手ではない」と控えめに語りながらも、杉本先生の中にあるバレエへの思いは、とても深く、まっすぐです。できたと思っても、まだ先がある。簡単には届かないからこそ、何度でも向き合いたくなる。そんな憧れを持ちながら、バレエによって培った基礎を、今の踊りや指導へつなげています。

そして杉本先生は、生徒にとってのバレエも、誰かと比べるためのものではなく、その時々の自分を感じ、少しずつ成長し、楽しみを見つけられるものであってほしいと願っています。

活動地域
東京都
主な活動
新体操指導/ダンサー/振付/セミナー講師
活動分野
コンテンポラリーダンス・身体表現
大切にすること
安全・個性・対話・踊る喜び
LEARNING WHAT ONCE FELT UNCLEAR

気になっていたことを、もう一度きちんと学び直す

杉本先生は、実技の専門大学で学んだ経験がなかったことから、踊りながらも、身体やバレエについて多くの疑問を抱えてきたといいます。

耳にしたことはあるけれど、本当に正しいのか分からない。先生から言われた感覚は覚えているけれど、なぜそうするのかは説明できない。どこで調べればよいのかも分からない。そんな一つひとつの疑問に、解剖学、栄養学、運動学、心理、音楽、歴史という異なる分野から光を当てていきました。

知ることで、身体の見え方が変わっていく

骨や関節、筋肉の働きを知ると、いつものタンジュやルルベにも新しい感覚が生まれます。栄養の役割を知ると、食事は体型を管理するためだけのものではなく、踊る身体をつくり、回復させるための大切な営みだと分かります。

音楽の拍子や和声、舞踊の歴史を知れば、動きの形だけではなく、その背景や表現の選択まで見えるようになります。

杉本先生は、知識を難しい言葉のまま抱えるのではなく、実際に自分で動き、生徒に伝える場面を思い浮かべながら学んでいます。「この言葉なら伝わるだろうか」「この意識を持つと動きはどう変わるだろうか」と考え続ける姿勢が、学びを実践へつなげています。

受講後には、身体の構造を以前より意識できるようになり、教える際にも明確なイメージを持てるようになったと話しています。知識は杉本先生に、答えを言い切る強さではなく、目の前の身体を丁寧に見るための自信を与えています。

EVERY BODY HAS ITS OWN STORY

一人ひとり違う身体に、その人なりの方法がある

杉本先生のレポートには、「自分だけの身体」「一人ずつの身体が異なる」という言葉が何度も登場します。

骨格も、関節の動く範囲も、筋力も、これまでの経験も違います。同じように見える動きであっても、身体の中で起きていることは一人ひとり異なります。だからこそ、図や理想的な形へ全員をそのまま当てはめるのではなく、目の前の身体を観察することが大切だと考えています。

理論として身体を知りながら、
自分「だけの」身体を細かく知っていく。

「引き上げる」「お尻を締める」「お腹を薄くする」「つま先を伸ばす」。バレエではよく使われる言葉も、受け取り方によっては、身体を固めたり、呼吸を止めたり、意図とは違う動きにつながることがあります。

杉本先生は、自分の感覚をそのまま正解として渡すのではなく、生徒の動きを見ながら、言葉を変え、視点を変え、ときには一緒に動いてみたいと考えています。できないことを責めるよりも、身体がまだ理解していないのか、説明の仕方が合っていないのか、別の準備が必要なのかを一緒に探していく。

その姿勢には、生徒を「直す対象」として見るのではなく、固有の身体と感覚を持つ一人の人として尊重するまなざしがあります。

TURNING EXPERIENCE INTO CARE

自分の経験を、これから踊る人の安心へつなげたい

杉本先生は、神経性やせ症による入院と療養を経験しています。活動量に対して食事や休養が足りない状態で踊り続け、身体の機能が大きく低下した時期がありました。

栄養学や運動生理学を学ぶ中で、当時の身体に何が起きていたのかを少しずつ理解できたといいます。糖質は脳や筋肉を動かすために必要であること。成長や回復にもエネルギーが使われること。痛みがなくなっても、身体の修復には時間が必要なこと。知識が、過去の自分の身体を責めるためではなく、いたわりながら理解するための手がかりになりました。

杉本先生が伝えたいのは、「食べなければならない」という一つの言葉だけではありません。
踊るためには生活があり、食事があり、睡眠があり、休む時間があります。身体と心の状態を置き去りにせず、必要なときには医療や栄養、心理の専門家へつながることも含めて、長く踊る環境を整えることを大切にしています。

自分の経験を誰かにそのまま重ねるのではなく、学び続け、確かな情報とともに伝えていく。そのうえで、同じように「食べること」「身体の変化」「踊り続けること」に悩む人が、ひとりで苦しまずにすむようにしたい。

杉本先生が目指している「踊りを楽しめる身体づくり」には、身体を強くすることだけではなく、自分の状態に気づき、助けを求め、休むことを選べる力も含まれています。

LEARNING THAT TRAVELS TO THE NEXT PERSON

学んだことを、今度は次の誰かへ手渡していく

杉本先生は現在、日々の指導や創作だけでなく、セミナーの講師としても、自身の経験と学びを伝えています。

『踊れるからだをつくろう!』〜バレエと食・身体を考えるフォーラム〜パート2では、公認スポーツ栄養士の伊藤あゆみ先生、Ballet Medical Support Team(BMST)の医師とともに登壇しました。杉本先生が共有したのは、病気の名前や出来事だけではありません。病気へ至るまでに心の中で起きていたこと、渦中ではどのように世界が見えていたのか、そして回復する中で身体や気持ちがどのように変わっていったのか。外側からは分かりにくい時間を、丁寧な言葉で伝えてくださいました。

体験を語ることを、予防と理解のための学びへ

身体が悪い方向へ変化するときは、想像以上に早いことがあります。一方で、身体を元の状態へ戻し、再び安心して生活し、踊れるようになるまでには、長い時間と大きなエネルギーが必要になります。

だからこそ、病気になる前に気づくこと。一人で抱え込まず、医師、栄養士、心理職など専門家の力を借りること。そして、周囲も善意だけで急いで答えを出さず、本人にどのような支えが必要かを一緒に考えること。その大切さを、杉本先生は自らの体験と学びの両方から届けています。

2026年2月22日には、「Ballet Connection in Tokyo 2026」のメディカルセミナーにおいて、ダンサー・新体操指導者として『経験から語る、神経性やせ症ってどんな病気?&防ぐために』を担当しました。競技や表現の現場に立つ人の言葉と、栄養・医学などの専門的な知見を一つの場に集めることで、摂食障害を誰か特別な人だけの問題にせず、指導者、保護者、踊る本人がともに考えられる時間をつくっています。

学ぶ人が、いつか誰かの学びを支える人になる。
その経験が、また次の安心へとつながっていく。

バレエ安全指導者資格®が大切にしているのも、このような学びの循環です。専門家から知識を受け取って修了するだけではなく、受講された先生方が、それまで歩んできた道や現場で培った専門性、資格で得た新しい視点を、次の受講生へ共有していく。ときには講師として前に立ち、自分だからこそ伝えられることを、新しい学びへ変えていきます。

杉本先生もまた、受講生として学びを受け取った一人から、次の人の学びを支える講師へと歩みを進めています。教える側と学ぶ側を固定せず、誰もが学び続けながら、誰かの力にもなっていく。その温かな循環が広がることは、バレエの現場全体を、より安全で、相談しやすく、多様な経験を尊重できる場所へ変えていく力になると考えています。

FINDING THE WAY TOGETHER

答えを与える先生より、一緒に見つけられる先生へ

杉本先生は、指導者について、「自分も一緒に動いて説明し、一緒に成長を見つけられるようにしたい」と書いています。

先生にとっては大勢いる生徒の一人でも、生徒にとって先生は一人の大きな存在です。だからこそ、先生のお手本へ一律に近づけるのではなく、その子、その人の身体や個性に向き合いたい。杉本先生は、指導する立場が持つ影響の大きさを静かに受け止めています。

「なぜできないのか」を、一緒に考える

以前、生徒に「やらないからできない」と言ってしまったことを、杉本先生は振り返っています。けれど本当は、やりたい気持ちがあっても、言葉が伝わっていないことや、身体がまだ動きを理解していないこともあります。

その気づきから、できないことを本人の意欲だけの問題にせず、説明、見本、課題の段階、環境を変えながら方法を探したいと考えるようになりました。

発達や学び方にも違いがあります。言葉で理解しやすい人もいれば、見て理解しやすい人、実際に動くことで分かる人もいます。小さな目標を一緒に考え、自分でできたことを感じられるようにする。否定する言葉より、次にできることが見える言葉を選ぶ。

杉本先生がつくりたいのは、生徒が先生の指示だけを待つ場所ではありません。自分の身体を感じ、考え、選びながら、少しずつ自分の踊りを育てられる場所です。そして、その過程を先生も一緒に喜べる関係です。

FOUNDATION OPENS THE DOOR TO FREEDOM

丁寧な基礎が、その人らしい表現を支えていく

杉本先生は、難しい技や華やかな動きへ急ぐのではなく、まず基礎を確立することを大切にしています。まっすぐ立つこと、重心を移動すること、呼吸を続けること、足の裏を感じること。基本的なことを丁寧に学ぶほど、身体は無理な力に頼らず、さまざまな動きへ進みやすくなります。

けれど、その基礎は全員を同じ形にするためのものではありません。杉本先生が世界のバレエメソッドを学んで感じたのは、クッペ一つにも、国や劇場、歴史、表現の考え方によって異なる「正しさ」があるということでした。

バレエは、型があるからこそ深く学べる。
そして、その先には豊かな自由がある。

クラシックバレエ、新体操、コンテンポラリーダンス。それぞれには異なる身体の使い方や目標がありますが、共通する感覚もあります。複数の経験を持つ杉本先生は、一つの方法だけに閉じず、別の角度から動きを考えることができます。

音楽の拍や和声を知り、舞踊の歴史を知り、衣装や哲学に触れることも、表現を広げる大切な学びです。身体の機能を知ることと、自由に想像すること。受け継がれてきたものを大切にすることと、今の身体から新しい表現を見つけること。その両方を行き来しながら、杉本先生は生徒の「踊り心」を育てようとしています。

A TEACHER WHO KEEPS LEARNING

教える人でありながら、学ぶ人であり続ける

杉本先生のレポートからは、知らなかったことに出会うたびに、「もっと知りたい」「実際に試してみたい」という好奇心が伝わってきます。

足の小さな関節の働きから、心臓や呼吸、発達、音楽のアクセント、バレエリュスの歴史まで。分野の違う学びが、杉本先生の中で少しずつ結びつき、踊りと指導に新しい見方を与えています。

学びは、先生らしく見せるためではなく

分からないことを分からないままにせず、調べ、試し、必要なときには専門家の力を借りる。学んだことを生徒へ伝え、その反応からまた考える。

杉本先生の自信は、すべてを知っていることからではなく、誠実に学び続けられることから育っています。

自分自身も心身ともに健康でバレエと向き合い、踊り続けること。自分の経験だけで判断せず、根拠を確かめること。そして、一人では支えきれないことを抱え込まず、必要な人へつなぐこと。

学び続ける姿は、生徒にも「今できなくても、これから知り、変わっていける」という安心を届けます。先生も生徒も、完成された存在ではなく、一緒に発見を続けていく。その関係が、杉本先生の指導を温かく、しなやかなものにしています。

知ることが増えるほど、目の前の人を、もっと丁寧に見られる。
DANCE AS NOURISHMENT

一人ひとりの「踊る」が、心身の栄養になる場所へ

杉本音音先生が大切にしているのは、上手に踊れる人だけが感じられる喜びではありません。

音に合わせて身体を動かすこと。自分の足で床を感じること。昨日できなかったことが、少しだけ分かること。疲れている自分に気づき、今日は休もうと決められること。誰かと踊り、違う表現に出会うこと。

誰にでも、どんなに小さくても、
いつでも「踊り」は備わっている。

高い目標を持つことと、身体を大切にすることは、どちらか一つを選ぶものではありません。安全に立ち、食べ、休み、学び、自分の状態を感じられるからこそ、長く挑戦し、自由に表現することができます。

杉本先生は、生徒を一つの理想へ近づけるのではなく、その人が持っている身体、感覚、経験を一緒に見つめながら、「あなたの身体では、どんな踊りが生まれるだろう」と問いかけてくれる先生です。

踊りが、心身を削るものではなく、明日を生きる力になるように。自分の身体を嫌うのではなく、知り、いたわり、面白がれるように。そして、いくつになっても「踊ることは楽しい」と感じられるように。

杉本先生の学びと指導は、一人ひとりの中にある小さな踊りを大切に育てながら、踊ることを心身の「栄養」へと変えていきます。

バレエ安全指導者資格®事務局

CERTIFIED TEACHERS MAP

バレエ安全指導者資格® 安全指導者MAP

各コースを修了された先生がいらっしゃる全国のスタジオを、お教室選びや相談先を探す際の参考にご覧いただけます。

※ピンをクリックすると、コースを修了された先生のお名前やスタジオが表示されます。

執筆:バレエ安全指導者資格®事務局

提出レポートとアンケートをもとに、学び続ける先生方の歩みと、それぞれの指導に込められた願いをご紹介しています。

NEXT STEP

一人ひとりの身体と心に、丁寧に向き合える指導者へ

バレエ安全指導者資格®では、解剖学、栄養学、整形外科学、生体力学、心理、発達、音楽、歴史、指導法を横断して学びます。経験や感覚を大切にしながら、確かな知識を加え、その人に合う方法を一緒に探せる指導へ。

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